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あまりにも凝視してしまっていたからだろうか。天宮路はそのまま梗の方に近付いてくるではないか。
「中内さん、お疲れ様です」
「お、お疲れ様です!」
声がうわずってしまった。
「元気が良いですね。急で申し訳ないのですが、ここ2年のtrick Knightsの楽曲使用のデータを私に送ってくれますか」
「あ、はい。承知しました。でも」
「ん?どうかしましたか」
「trick Knightsは使用された楽曲が膨大なので、楽曲別のデータと、使用履歴全体のデータ、業種別利用とか色々ありますけど、どうしましょうか」
「ここ2年の詳細なデータならなんでも構いません。その辺りはお任せします。もっと細部までまとめてあるものがあるならそれも送ってください。きっと中内さんのことだから、データはもうお持ちでしょうし、今日中にいただけると助かります」
静かに口角を上げて上品に微笑むと、天宮路はそのままデスクに引き返していく。
(出たぁあ!キラースマイルいただきましたぁあ!)
ガッツポーズせんばかりの勢いで腰の辺りで拳を握り締めると、気のせいだろうか、くすりと笑って喉を鳴らすような音がどこからか聞こえた気がした。
「…………?ま、いっか」
取り急ぎ、手を付けている業務を駆け足で片付けながら、タスクリストの項目を二重チェックで潰していく。
そして定時まであと30分と云うところで、ようやく天宮路から依頼された使用楽曲のデータを、再編して見易くまとめ直す。
直近2年分を抽出して、シートごとに業種別でデータを引っ張ってグラフもつける。
梗が会議用に取りまとめている他のアーティストのデータもそうだが、数字の羅列でグラフなどは付けていない。
会議などで利用希望があれば、今回のように見易く少し手直しをして渡すようにしている。しかも今回は天宮路から直々にデータを寄越すように依頼されてしまった。
無駄に気合いの入った資料を添付すると、念のために課長もCcに追加してメールで送信する。
時計を確認すると19時12分。無事にデータを送付できたことだし、梗はそそくさと帰り支度を始めるとパソコンの電源を落とした。
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