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帰宅するとすぐにシャワーを浴びて、パピヨンに出勤する支度を始める。
シャワーを浴び終えると、まず真っ先に同じブランドのボディクリームと香水をつける。
そしてクローゼットの前で下着姿のまま仁王立ちすると、首筋と胸元が隠れるドレスを探す。
「まったく……リノさんが悪ノリするから面倒臭いことに」
首元を隠せるようにホルターネックのドレスを探し、胸元まで細かいレースの刺繍が施されたアクアブルーのドレスを手に取る。
マーメイドラインでスリットはちょうど膝くらいまで入っているだろうか。
鏡台の前に座ると、とりあえず首筋にファンデーションを薄く伸ばしてキスマークをぼかす。コットンパフで軽く擦っても浮き出てくる気配はないので、そのままドレスに袖を通して首元のフックを留めるとサイドのジッパーを上げる。
そのままタオルでドレスをカバーしながら念入りに化粧を施すと、光の加減で桜色が際立つブラウンのウィッグを被って目立たないようにしっかりと固定する。
これはハーフアップにセットされているので、昨夜のものよりはズレを直しやすい。
最後に安く見えないネイルチップを指先にあしらえば、麗の完成である。
「よし。このドレスならやっぱりこうやって下ろしてる方がいいよね」
ウィッグの毛先を櫛で整えると、ふと時計に視線を移して時間を確認する。
そろそろ20時になるが、まだリノからの連絡はない。タクシーで20分ほどなので、あと5分ほどしか待てない。
スマホを手に取りメッセージアプリを確認するが、リノからのメッセージはやはり来ていない。
【リノさん、お忙しいなら一人で行けますのでお気遣いなく】
とりあえずメッセージを送ってトイレを済ませ、アイメイクなどをもう一度確認して整えるが、それが終わってもリノからの返事はないどころか、既読さえつかなかった。
「もしかして、朝までメッセージのやり取りしてたから寝坊でもさせちゃったかな」
リノが昼間なにをして過ごしているかは知らないが、勤めているなら残業なんかも有り得るだろう。
梗自身が500万の借金のカタとは云え、パピヨンで働いていることもリノは知っているし、今日もパピヨンで仕事があることを今朝方まで話していた。
色々と考えたいことはあるが、手早くアプリでタクシー手配を済ませると、今日のドレスに合うバッグに必要なものを詰めて薄手のコートを羽織る。
「さて。戦場に向かいますか」
ブルーの厚底サンダルを履いて玄関の戸締りを済ませると、エレベーターで一階に降りる。
その間もリノからの連絡はないかと確認したが、やはりメッセージに既読が付くことはなく、タイミングよく到着したタクシーに乗り込むと、そのまま一人でパピヨンを目指した。
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