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 店に着くなり、仕立てのいい訪問着姿の紅蘭ママが怪訝な顔をして梗を迎え入れる。 「麗ちゃん、貴方一人で来たの?」 「おはようございます。ええ、一人で来ました。と云うか、リノさんと連絡がつかなくて、一人で来ざるを得なかったので」 「あら、そうなの?リーくんはマメな子よ。何かどうしようもない用事で動けなかったんだわ。嫌ってあげないでね」  苦笑いを浮かべる紅蘭に、なぜそこまでリノに肩入れするのかそれとなく聞いてみることにする。 「お時間宜しいなら少し伺いたいんですけど、リノさんって、どう云う人なんですか」 「あら、リーくんに興味があるの?」 「……残念ながら。ただ送り迎えをしてくださるのが負担になるならご迷惑なので」  少し楽しげに微笑む紅蘭に、なら私の私室にいらっしゃいと手を引かれて店の奥の部屋に入る。  飾り気のない、紅蘭の艶やかさとは正反対の質素な部屋に少し驚いて固まっていると、可笑しそうに肩を揺らして紅蘭が座りなさいよとソファーを指差す。 「ここはバックヤードだもの。こんなものよ」 「紅蘭さんて、結構シビアなんですね」 「そうじゃなきゃ、こんな立地で店の切り盛りなんて出来ないわよ。さて、リーくんの話だったかしら?」  正面に腰掛けると、なにが聞きたいの?と優しい声で質問される。 「ただでさえ、その……あの件でご迷惑をお掛けしているので、送迎までは本当に失礼な気がして。今日みたいに先方も都合がつかない時があるでしょうし」 「ふふ、心配ないわよ。リーくんだって無差別にそこまでのお人好しを振り撒く訳じゃないのよ?あの子はああ見えて繊細なところのある子だから、よっぽど麗ちゃんが気になるのね」 「はあ……」 「なあに?リーくんは失恋かしら。500万も立て替えたって言うのに。可哀想ね」 「ちょ、その話は」 「大丈夫よ。そのために誰もいない私の部屋に呼んだのだから」  紅蘭は珍しくタバコに火をつけると、細長いそれを吸って白い煙を吐き出す。 「ちょっと……いや、かなり変態でやらしいし手も早いけど、リノさんが根っからの悪人だとかは思ってません」 「ふふ、まだ心が子供なんでしょうね」  何か含みのある言い方で紅蘭が少し遠くを見る。 「思春期以上に性に興味持ってる感じがしますけどね!?」 「あはは。でもその言い方だとなにもされてないんでしょう?」 「……なんとか逃げました」 「じゃあ大事に扱われてるから大丈夫よ」  楽しそうに笑って紅蘭がタバコの火を消す。今日も綺麗な指先に艶やかな宝石が光っている。
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