1423人が本棚に入れています
本棚に追加
31
入店してから2時間。担当がない間はサポートでテーブルを回り、担当客が入ればその対応をして慌ただしく過ごしている。
そんな最中、見覚えのある男性が入り口付近に立っているのが見えた。
(え……天宮路部長!?)
紅蘭が入り口に立ち、慣れた様子で挨拶を交わしている。
(一緒に居るのって、タンジェリンの若林さんかな?)
タンジェリンはCM制作の会社で、今日まさに天宮路に頼まれたtrick Knightsの楽曲をよく使用している取引先だ。
「どうしたの麗ちゃん。俺が居るのによそ見?」
「よそ見なんてしませんよ。北澤サマに召し上がっていただこうとフルーツを頼んだのに遅いんですもの」
「麗ちゃんはそういうところ、抜かりないよね」
「あら、召し上がりたいと仰ったのは北澤サマなのに」
「ごめんごめん。それより今日のドレスも髪型も清楚で可愛いよね。背中は大胆だけど」
するりと伸ばされる手を器用にあしらうと、代わりに手を包むように握って北澤の目を見つめる。
「あまり大胆なことはなさらないで。麗、勘違いして職場まで押し掛けて行っちゃいますよ?」
「ふふ、それは大変だ」
北澤が喜色満面、手を握り返されそうになったタイミングで、テーブルにボーイと樺恋が現れる。
「恐れ入ります。麗さん、紅蘭ママがお呼びですのでお願いします。北澤様、樺恋では力不足かと存じますが麗さんをお借りします」
「北澤サマ、樺恋はこう見えて将棋が得意なんですの。是非あのお話を樺恋にも聞かせてあげてください」
梗はにこやかにそう言って席を立つと、樺恋にあとはお願いねと呟いて、ボーイと共に席を離れる。
フロアを奥に進み、担当に少し手を振ったりしながら悠然と歩いていると、一番奥の豪奢なソファーに紅蘭の姿が見えた。
最初のコメントを投稿しよう!