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 入店してから2時間。担当がない間はサポートでテーブルを回り、担当客が入ればその対応をして慌ただしく過ごしている。  そんな最中、見覚えのある男性が入り口付近に立っているのが見えた。 (え……天宮路部長!?)  紅蘭が入り口に立ち、慣れた様子で挨拶を交わしている。 (一緒に居るのって、タンジェリンの若林さんかな?)  タンジェリンはCM制作の会社で、今日まさに天宮路に頼まれたtrick Knightsの楽曲をよく使用している取引先だ。 「どうしたの麗ちゃん。俺が居るのによそ見?」 「よそ見なんてしませんよ。北澤サマに召し上がっていただこうとフルーツを頼んだのに遅いんですもの」 「麗ちゃんはそういうところ、抜かりないよね」 「あら、召し上がりたいと仰ったのは北澤サマなのに」 「ごめんごめん。それより今日のドレスも髪型も清楚で可愛いよね。背中は大胆だけど」  するりと伸ばされる手を器用にあしらうと、代わりに手を包むように握って北澤の目を見つめる。 「あまり大胆なことはなさらないで。麗、勘違いして職場まで押し掛けて行っちゃいますよ?」 「ふふ、それは大変だ」  北澤が喜色満面、手を握り返されそうになったタイミングで、テーブルにボーイと樺恋(かれん)が現れる。 「恐れ入ります。麗さん、紅蘭ママがお呼びですのでお願いします。北澤様、樺恋では力不足かと存じますが麗さんをお借りします」 「北澤サマ、樺恋はこう見えて将棋が得意なんですの。是非あのお話を樺恋にも聞かせてあげてください」  梗はにこやかにそう言って席を立つと、樺恋にあとはお願いねと呟いて、ボーイと共に席を離れる。  フロアを奥に進み、担当に少し手を振ったりしながら悠然と歩いていると、一番奥の豪奢なソファーに紅蘭の姿が見えた。
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