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「紅蘭ママ、麗さんをお連れしました」
「ありがとう。若林様、本日私と一緒にお相手させていただきます麗で御座います」
「お初にお目に掛かります。麗と申します。本日はどうぞよろしくお願いします」
立ち上がった紅蘭に倣って挨拶を済ませ笑顔のまま顔を上げると、そこには天宮路と若林、それにあと二人ほどエクリプスの営業担当が同席している。
(ちょ、この席はヤバい!ダメです、紅蘭さん!NGです)
笑顔のまま紅蘭に抗議を入れるが、気付かないフリでそのまま天宮路の隣に座ることになってしまう。
あの天宮路が真横に座っている。
ドキドキして震える手を、そう見えないようにごまかしながらグラスに氷を入れ、若林のキープボトルだろう。ウイスキーを注いで水割りを作り、コースターにセットする。
「ありがとう」
キラースマイルではない、事務的な笑顔で天宮路がそう呟くので、梗は少し残念に思いながらも口角を上げる。
「君も飲んだらいいよ、麗ちゃんだっけ?」
「ありがとうございます。頂戴いたします」
手元で薄めの水割りを作ると、グラスを合わせて乾杯してからお酒をいただく。
テーブルについてからは、紅蘭の巧みな話術のおかげか、若林もだが営業の二人もよく喋る。
梗のことは完全にパピヨンの麗だと思い込んでいるらしく——まあ普段はすっぴんだしラフな格好が多いのだが、全く気付かれる気配がない。
その間の天宮路はといえば静かなもので、たまに会話を振られると、そうですねと小難しい顔で返事をしている。
(部長らしいな……あぁ、尊い)
間近でご尊顔を拝謁してうっとりしそうになるのをごまかすと、会話の輪から外れがちな天宮路にそれとなく声を掛ける。
「お疲れですか。少し顔色が優れないようですけれど、お冷をお持ちいたしますか」
「……いや、大丈夫ですよ。お気遣いありがとう」
少し驚いたように、けれど次の瞬間にはキラースマイルで梗を見つめて静かに微笑むと、グラスを手にして水割りを一気に呷り喉が上下する。
(あぁああ!キラースマイルいただきましたぁっ。喉仏ぇ)
心では絶叫しつつ、すぐに手元で作った水割りをコースターにセットして空のガラスを何気なく下げると、天宮路が不思議そうにこちらを見ている。
「どうかされましたか」
「いや、よく目が合うなと思ったんです。お仕事柄ですか?しっかりと目を見てお話になるのは」
逆に正面から見つめられて、梗は心臓を鷲掴みにされたように顔が火照るのを感じる。
「ああ、失礼。急に見つめたら嫌ですよね」
「……いえ。素敵な目をしてらっしゃるので綺麗だなと、呆けてしまいました」
嘘ではない。これは毎日のように思っていること。眼鏡の奥の瞳が綺麗で、その眼に見つめられたいと幾度となく思ってきた。
笑ってごまかしていると、若林や営業の社員が揶揄うように声を掛けてくる。
「おー?堅物で有名な天宮路さんは、この手の美人がお好みでしたか」
良かったね麗ちゃんと既に酔っているのか、若林が上機嫌で膝を叩いているが、天宮路はと言えば、何かを言うでもなくただ静かに水割りを飲んでいる。
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