喰われるモノ・喰うモノ

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『ニ……ゲテ……ニゲ……テ……ツカマ……ル……ヤ……ツラ……ガ……ヤツラ……ガ……クル……ニゲテ……』  赤ん坊を抱き抱えたまま白銀の世界を進んでいると,突然,頭の中で彌生の声が響き渡った。雪あかりが眩しく,声を聴こうと目を閉じると瞳の奥で大勢の白衣を着た研究者が武装した男たちが現れた。男たちに山本とその胸に抱き抱えた赤ん坊を見つめていた。  男たちの視線に警戒していると,随分昔に見た記憶のある薄暗い路地の奥で白衣を着た男が皺くちゃの手で汚い歯を隠すようにしながら血と体液にまみれた口を微かに開き,異様な微笑みを見せた。男は山本の視線に気づくと静かに闇夜に姿を眩ませるように武装した男たちの影に隠れた。 『ニ……ゲテ……ニゲ……テ……ニゲテ……ニゲテ……オネガイ……ニゲテ……ニゲテ……ニゲテ……』  漆黒の闇のなかで武装した男たちの陰に隠れ,男は酷く汚ない不揃いの黄ばんだ歯を見せ,糸を引くようにニチャニチャと音を立てて微笑んでみせると,そのまま姿を消した。  男の姿が消えた瞬間,真っ暗な闇の中で山本に抱かれた赤ん坊が胸に顔を埋めて,小さな手が山本の手を痛いほどしっかりと握り締めた。
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