追われるモノ

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 初めて男に犯されたのは,まだ生理もこない幼いころだった。母親が連れてきた若い男で,母親が寝ている横でなにもわからない幼い彌生はその男に無理矢理犯された。  母親も横で娘が犯されたことに気づいていたが,何も言わず男を家に招き続けた。  何度も犯されているうちに,男は知らない男たちを連れ込むようになり彌生の身体は物として扱われていくうちに性の快楽を覚えていった。  そんな毎日を過ごしていたある日,久しぶりに姿を現した父親に連れられ家を出た。  どこに行くのか知らされず,ビジネスホテルを転々とした。彌生にとって嬉しかったのは,大型スーパーのセール品ではあったが新しい下着と洋服を買ってもらったことと,毎日風呂に入れることだった。    何度も電車に揺られて県を跨いで移動したが,知らない土地であっても,どこに行くのか知らされなくても,暴力を振るわない父親と一緒にいるのが嬉しかった。  夢を見ているのか,それとも思い出しているのか,心地よい幻覚のなかで彌生はベッドに横たわりながら自分がいま置かれている状況を頭の中で整理しようとした。  少しでも顔を動かそうとすると顎に激痛が走り,全身が熱を帯びていて骨が折れているんじゃないかと思うほどあちこちから痛みが電気のように流れた。  記憶のなかの父親はそこで途切れていた。何軒かのビジネスホテルに泊まったある日,外出した父親は帰ってこなかった。  ホテルに置き去りにされた彌生は保護され警察で若い女性の警察官から両親が別々の場所で亡くなったことを聞かれたが,すべてが流れ作業で一通りの手続きが済まされるとそのまま施設へと送られた。  施設といっても監視の厳しい場所で,同年代の子供たちが何人もいたが子供たちから笑顔は見られなかった。
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