追うモノ

1/12
前へ
/129ページ
次へ

追うモノ

 痛んだ金髪の痩せ細った女がハンドルを握るバンの後部座席に,毛布に包まれ横たわる彌生の姿があった。  薄く開けた窓から風が吹き込み,車の中が女の香水で息苦しくなった。彌生はその香水を使っている女を知っていたが,なぜ車を運転しているのか,どこに向かっているのか理解できずにいた。  高速道路を走っているのか,リズムのあるタイヤ音と滑らかな感覚が耳の奥をくすぐりやけに心地よかった。彌生がどれくらい寝ていたのかわからないが,随分と長い時間車に乗っているのはわかった。  寝ている間,懐かしい夢をみていたのを思い出した。誰かはわからないが,とても大切な人たちが白衣姿の男たちと,それを警護するような武装した制服姿の男たちに追われていた。  彌生は必死に彼らに「逃げて!」と叫び続けるだけの夢だった。幼い頃に交通事故に遭ってから度々見る夢だったが,悲しさことあったがそこに不安や恐怖感はなかった。  そんな夢を思い出しながら後部座席に横たわっていた。助手席に裕翔が座り,煙草を吸っているのが臭いでわかったが,カーステレオから流れる激しい音楽が金髪の女と裕翔の会話を後部座席に横たわる彌生に届かなくした。 「裕翔,あんた彌生をあのモンゴル人たちとゲイのジジィたちに犯らせたとか,マジで最低なんだけど。以前,私をあいつらに犯らせたとき,私が死にそうになって入院したのを知ってるくせに……」 「ああ……しょうがないだろ。逃げるのに金がいるからな……それにあの三人組は……彌生がこの先,生き残れるかの試験みたいなもんだ……。試験はクリアのはずだから,いまから先生のとこに行って金をもらう。今回,この宿題を済ませたらまた手術してもらえることになってんだ……」 「先生の病院って南信越中央総合病院だっけ? なんであの先生,あんな凄い手術ができるのに田舎の山の中の病院にいるの? それにあの先生からの宿題……? なんなのよ試験って? もしかして,あんたあの先生のとこの学生なの?」 「俺が学生ねぇ……こんなタトゥだらけの学生いるのかね? 俺もお前もあの先生の患者だろ」 「あんたみたいな学生がいたらキモイよね。それにしても,あの三人組を相手してよく生きてたね……この子……。私だってあいつらに犯されて死にかけたのに」 「こいつは大丈夫だけど,ジジィどもが死にかけたよ」  
/129ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加