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痛んだ汚い金髪を眺めながら後部座席に横たわる彌生は,全身の痛みから逃げるように身体の位置を少しだけ変えて楽な姿勢を探した。
裕翔のもっている薬を呑んでも数時間で効果が切れてしまい,その度に薬の副作用で激しい眩暈と吐気に襲われた。
少しずつ身体の位置を変えていると,気のせいか僅かに楽になる体勢をみつけた。ほんの少しだけ気持ちも楽になり,数時間前に目の前で痙攣していた年寄りたちを思い浮かべた。
『あのお爺ちゃんたち,生きてるのかな……?』
目の前で老人が背筋を伸ばして痙攣し,陰部が焼けるのを見たのは初めてだった。大量の尿が溢れ出し,それで感電したのではないかと想像したが,裕翔の慣れた態度に何度もあんな状態になっているのだろうと納得するようにした。
逃走資金ができたことで少しだけ希望がもてた反面,愛菜が一緒にいることに不安を感じた。
『絶対,逃げてやる……なにがなんでも……あいつらから……あの化物から逃げきってやる……』
自分に言い聞かせるように心の中で繰り返し呟くと,全身の痛みに耐えようと横たわったままシートの上で脱力した。
随分と田舎まで車を走らせていたが,どこへ向かっているのかは裕翔しか知らなかった。
カーステレオから流れる聴いたことのない激しい音楽が不快で,音の波が頭の中で反響しているように感じて気分が悪くなったが,薬のせいで意識が朦朧とし,起き上がる気力もなかった。
車は相変わらずスピードを落とさないで信号などで止まることなく走り続けたが,カリカリとなにかを引っ掻くような音が車の下から聞こえていた。
愛菜と裕翔はその音に気づきいておらず,音楽が車内の会話すら聞こえにくくしていた。
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