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追われるモノ
「お前,ふざけんなよ。なんなんだよ,あいつら。なんであんな数がいるんだよ」
「知らないよ。私だって予想外なんだから」
「お前,最初からアレがストーカーじゃないってわかってたんじゃないのか?」
「知らないし,そもそもアレが何かもまだわかってないんだから」
「お前,アレは先生のところの……そもそも,なんでお前がアレに追われてるんだよ……」
繁華街の路地裏でひっそりと経営する古い喫茶店,その一番奥の席で若い男女が声を殺して話あっていた。男は不機嫌な様子を隠そうともせず,声こそ殺していたがなにかに怒っているのは離れた席にいてもすぐにわかった。
「で……どうすんだよ,これ……」
「わかんないよ……」
珈琲カップを持つ手が震え,指先まで塗り潰された色が抜けて薄くなったタトゥがやけに汚らしく見えた。普段,男はなにしなくてもその場にいるだけで,顎の下まで埋め尽くされた全身のタトゥと顔や耳に無数に開けたピアスが原因で周りを威嚇した。
「このままじゃ俺もお前もヤバイのはわかってるよな……」
「…………」
「おい,わかってんだろ?」
女の指には大きなシルバーのリングがいくつもついていたが,どれも値のはる高級なものばかりだった。
「わかってるよ。この状況がヤバイのなんて……当たり前じゃない……」
男は珈琲カップを置くと,震える手を見つめながら恨めしそうにピアスのぶら下がった唇を噛んだ。焦点の定まらない視線を珈琲カップに落とし,ぶつぶつと呟いた。
「くそ……どうしたらいい……どうやったら,あいつらから逃げられる……こんな話,先生からは聞いていないぞ……簡単な宿題のはずだ……なんでこんな話を受けちまった……なんでアレがいるんだよ……」
「なんとかしてよ。さっきから宿題,宿題って意味わからないし。アレってなによ?」
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