狩るモノ

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 小鳥遊の言葉に甘えようと,痛む左腕を押さえながら辺りを見回した。自分で車を運転するわけにもいかず,かといって救急車を呼ぶのは気が引けた。 カリカリ……カリカリカリカリ……カリカリ……タスケ……カリカリカリカリカリ…………  空を真っ黒に覆う黒煙の隙間から太陽の陽射しが差し込む度に目の前がチカチカと点滅し,耳鳴りが激しく響き渡った。 「山本さん? 大丈夫ですか? 頭とか打ってないですか?」  小鳥遊の声が遠くで聞こえたが,それよりも目の前で激しく点滅する光と何かを擦るようなカリカリという不快な音で吐き気をもよおした。   カリカリ……カリカリ……カズ……カリ……タスケ……テ……カリカリ……タスケテ……カズヒコ……  頭の中を声が響き渡り,目の前で点滅する光の中に見覚えのある光景が現れては消えた。 「誰……だ……?」  何度も点滅する光の中で,緩やかなカーブを走る車,助手席に座る若い女性,窓の外には深緑の山々が拡がり,薄く開けた窓から心地よい風が車内に流れた。  緩やかなカーブを抜けると,道路の端に人らしき何かが倒れているのを目にして車のスピードを緩めると同時に,左側にある茂みのなかから木の枝のように細い人のような姿の何かが飛び出してきた。  車は一瞬ブレーキを踏んだが,窓ガラスに当たる枝のようなものを見た瞬間,再びアクセスを踏んだ。  次の瞬間,道路に倒れていた人のようなが車を下から跳ね上げ,そのまま勢いをつけて右側の緩やかな谷にへ落ちていった。 カリカリカリカリ……カリカリカリカリカリカリ……カリカリカリ……カリカリ……カリ……  頭を強く打ち,朦朧としている山本の姿がそこにあった。
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