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カリカリカリカリ……カリカリカリカリカリカリ……カリカリカリ……カリカリ……カリ……
左腕の痛みが激しくなると同時にひっくり返る車の裏側が目の前に現れ,車内から呻き声が聞こえた。
『この車……覚えてる……二十年前に俺が乗っていた車だ……』
車からオイルやガソリンが漏れているのが見えたが,山本は声も出せずただ見ているしかなかった。
『あの時の事故なのか……?』
車が落ちた場所にいくつもの枝のような影が覗き込んでいたが,そのなかの一つが音もなく車に近づくと,助手席の女の子の髪の毛を掴み,車内から引きずり出した。
ソレは身体の殆どの部分をミイラ化した木の枝のような姿をしていたが,明らかに人間である,もしくは人間であったであろう肉体をしていた。
意識を失い顔から血を流す女の子は抵抗することもなく,ソレに腹を裂かれ,内臓を引き摺り出されて,ぐちゃぐちゃと音を立てながら喰い散らかされた。
運転席で朦朧とする山本は,それが夢なのか現実なのか区別がつかず,ただ黙って隣に座っていた結婚を約束していた彼女が喰われていく様子を黙って見ていた。
カリカリ……カリカリ……カズ……カリ……タスケ……テ……カリカリ……タスケテ……カズヒコ……
ソレは内臓を喰い散らしている間,鋭い爪を立て,彼女の頭皮をむしりながら剥き出しになった頭蓋骨をカリカリと音を立てて引っ掻いた。
視界には見たことのない足跡があちこちに拡がり,彼女の呻き声が遠い意識のなかで木霊して聴こえた。
喰われながら山本に助けを求める彼女の眼球が抉り出された瞬間,山本は意識を失った。
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