狩るモノ

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「山本さんが倒れた! 救急車だ! 早く救急車の手配を!」  小鳥遊の声が遠くで聞こえていたが,意識は深い闇のなかを彷徨っていた。時系列がめちやめちゃになり混乱のなかで若いころに事故を起こしていた記憶が蘇り,彼女が得体の知れない動物のような人間に生きたまま喰われた光景が何度もフラッシュバックした。  病院に運ばれ,ストレッチャーで廊下を移動しているときにまだ若い医師の織田が何度も覗き込み,ペンライトで目の奥を繰り返し照らされた記憶が蘇った。  光が左右に行ったり来たりするのを意識のなかで見ていたが,織田がなにかを叫んでいるような気がした。 『ああ……これは,あの時の光景だ……二十年前に病院に運ばれたとき……あの時の記憶だ……思い出した……俺は事故を起こしたんだ……』  記憶のなかで事故で動けなくなった彼女が車から引き摺り出されていく様子が繰り返され,胸元から鋭い爪で腹を裂かれ,内臓を掻き出されている姿を見せつけられた。 『なんなんだ……こんなの嘘だ……あり得ない……嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! 嘘だ!』  彼女の頭皮が鋭い爪でゆっくりと裂かれると,剥き出しになった頭蓋骨をカリカリと引っ掻き,爪が引っ掛かったとろこからゆっくりと頭蓋骨に穴を開けて,バキバキと音を立てて頭蓋骨をむしり取った。 『嘘だ! こんなことあり得ない! なんなんだよ!?』  不揃いの汚らしい歯が頭蓋骨に噛みつき,さらに骨をめくり取ると,紫色の脳みそが剥き出しになった。 カリカリ……カリカリ……カズ……カリ……タスケ……テ……カリカリ……タスケテ……カズヒコ…… 『こ,こんなこと……現実にあるわけがない……』
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