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救急車が到着すると,ぐったりと倒れた山本を救急隊員たちがストレッチャーに乗せ,車に乗せた。
隊員が何度も大声で名前を呼ぶのが聞こえ,過去の記憶のなかに大声で呼ばれる名前が混ざり合い,深い意識の底に現実が届くと徐々に意識が回復していった。
「山本さん,聞こえますか? 聞こえてたら指を動かして下さい! 山本さん,聞こえますか? 腕を叩きますよ。叩かれてるのを感じたら指を動かして下さい!」
救急隊員が耳元で大きな声で話し掛けて続けると,山本の意識がゆっくりと戻ってきて,折れていない右腕を何度か叩かれているのを感じ,右手の人差し指を上下に動かした。
「山本さん,聞こえますね! このまま病院に搬送します! 右腕の骨折のほかに頭部を打っている可能性があるので検査をします。どこかに痛みや吐き気はありませんか?」
山本は声に導かれるように微かな目を開けたが,目が回りすぐにまた目を閉じ意識を失った。意識が薄れていくなかミイラ化した腕が骨折した右腕を握りしめているような気がしたが,痛みを感じないどころか,痛みを取り除いているように感じた。
「山本さん! 山本さん! 山本さん!」
何度も腕を叩かれていたが,もはや救急隊員の声も腕を叩く刺激も山本には届かなくなっていた。
「山本さん! 聞こえますか!? 山本さん! 山本さん! 聞こえてたら指先を動かしてください!」
『ニ……ゲテ……ニゲ……テ……ツカマ……ル……ヤ……ツラ……ガ……ヤツラ……ガ……クル……ニゲテ……』
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