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覚醒するモノ
自分がどこにいるのか,いつからこうしているのかしばらく理解できずに,見知らぬ天井をじっと眺めていた。
「あら? 山本さん,意識が戻ったみたいね。気分はどう? 痛みとかある?」
年配のでっぷりと太った看護師が山本を覗き込むと同時に首周りの肉が揺れ,酸化した脂のような不快な臭いが微かにした。
「いま先生を呼びますね。どこか痛かったり,気分が悪かったら言って下さいね。いま,首が動かないように固定してあるけど,心配しないでね。神経に損傷があるといけないから拘束しているの」
看護師が言う通り,頭と全身が動かないように革製のベルトでベッドに固定されているのがわかった。
全裸に薄いガウンのようなものを着ていることで,ここが病院の一室だとわかった時点で,いまさらどうにかしようという気はなかった。
両手両脚に黒いベルトか巻かれ,腹部にも同じような太いベルトが巻き付けられ,ベッドに固定されていた。
口には酸素を送るマスクが装着されていたが,顎を固定するベルトが巻かれ,唾液を定期的に吸い取るホースのせいで口を開くことができなかった。
何もできずに黙ったまま天井を見つめたが,どうして自分が病院のベッドに頭を固定されて寝ているのか考えた。
『交通事故,掬躬津彌生,袴田裕翔,賀喜衷愛菜,ホワイトボード,現場検証,聞き込み,富岡の婆さん,真喜内,左腕,織田順也,二十年前,交通事故,彼女,自分,病院,病室,織田順也,骨,枝,異形……織田……順也……』
頭の中で繰り返しキーワードになりそうな言葉を繰り返し唱え,いままでの出来事と耳にした単語を繰り返し頭の中で唱えバラバラになったパズルのピースを探した。
『現実,妄想,幻覚,幻聴,耳鳴り,骨,爪,汚い歯,ミイラのような腕,内臓,脳みそ,喰う』
記憶の奥底に目の前で彼女の内臓を掻き出されて,脳みそを剥き出しにされて得体の知れないなにかに喰われている姿をぼんやりと思い出した。
『現実,嘘,幻覚,幻聴,なにが本当なのか……』
目を閉じると,彼女がソレに喰われながら助けを求める様子が浮かんだが,まだ記憶が曖昧で映画かテレビのワンシーンを観ているような気がした。
『彼女……彼女の名前……歳……彼女の出身地……』
見つからないピースを探すように色々なキーワードを思い浮かべては,なにかを思い出さないか必死に考えた。
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