覚醒するモノ

3/11
前へ
/129ページ
次へ
 山本の耳には二人の会話が聞こえていたが,何を話しているのかまでは理解できなかった。ただ,よく知る織田が太った中年の看護師に口で奉仕させているのは音と気配で十分把握した。 『こいつら……なにしに来たんだ?』  一定のリズムでじゅぷじゅぷと陰茎を咥える音が響くと,突然,フラッシュバックが意識清明のまま過去の事故の風景を鮮明に蘇らせた。 『なんだ……いままでこんなに鮮明なのは見たことなかったぞ……』  当時の山本はとにかく遊び好きで,常に色々な女を連れ回し毎回のように違う女を抱いていた。  二十年前に事故を起こした時に連れていた女も山本に言われ,ハンドルを握る山本の股間に顔を埋めてしゃぶっていた。  よく知る郊外の暗い道を運転していたとき,突然山本の意識が混濁し,朦朧とするまま緩やかなカーブを曲がりきれずに車はそのまま道路脇の草むらへと落ちて,その衝撃でひっくり返った。  車がひっくり返る衝撃で女が山本の股間を喰い千切ってしまい,それがキッカケとなり山本の身体にいままで眠っていた異変が起こった。  みるみるうちに山本の身体から水分が抜けたように皺々になると,骨と皮だけのミイラのような姿になり,鋭い爪でシートベルトを切り,そのままドアを蹴り破って外へと出た。  股間を血だらけにしたミイラのように細くなった山本は,助手席の女を車から引き摺り出すと鋭い爪で腹を切り裂き内臓を掻き出して喰い散らかし,そのまま頭蓋骨を爪で割り紫色の脳みそを啜った。  その行為自体,山本が意図して行ったわけではなく,その後完全に記憶から消し去られた。そしてそのまま意識を失った山本が運ばれた病院の救命救急センターにいた織田がやけに細身の山本の股間が再生していくのを目の当たりにし,衝撃とともに織田の医師としての人生を狂わせていった。 『そんな……あの夢の中の化け物が自分なはずがない……俺はなにを馬鹿げたことを想像してるんだ……』  病室のなかで大柄な看護師が立ったまま椅子に両手をついて脚を開き,腰を突き出して後ろから織田に責められ肉と肉がぶつかるパンパンという音が響いた。 『ふざけんなよ……なんなんだ,こいつら……』
/129ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加