追われるモノ

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 裕翔はスマホを弄りながら,不機嫌そうに席を立ち彌生を見た。 「ちょっと待ってろ。逃げるにしても当面の金がいる。お前には稼いでもらう。わかってるよな」  彌生は裕翔の背中を見ながら大きなため息をついた。この男がなにを考えているのかは容易に想像ができたが,そこまでしないとこの状況から逃げられない自分自身に情けなくなり,なんとしてでも裕翔を徹底的に利用して自分だけは助かろうと心に誓った。  少しして戻ってくると無言で伝票を手に取りそのまま会計を済ませたが,その間もずっと独りでぶつぶつと呟き,腕の白い部分を掻いていた。  何も教えてもらえない彌生は黙って裕翔の後を追ったが,これからどうやって逃げるのかは相変わらず曖昧で不安しかなかった。  古い喫茶店を出るとすっかり暗くなっていて,生温かい空気が漂い頼りない街灯が路地をオレンジ色に照らした。 「彌生,今夜お前を知り合いの男たちに預ける。そいつらは俺と共通の知り合いからの紹介だから問題はない。一人三万,三人で九万だ。明日も昼間にジジィ二人に同じ条件で預ける。これで十五万。金を受け取ったらすぐにこの街から出るぞ」 「三人?」 「ああ……今夜は三人同時。明日は同時に二人を相手してもらう。金はお前が預かればいい。そうすれば俺一人で金をもって逃げる心配もないだろ。全員満足されなけりゃ,金は払ってもらえないからな。まぁ,ジジィ二人はお前には楽な仕事になるだろうが」 「わかった……」 「それからジジィたちにはお前が十六歳だと伝えてある。そこは上手く合わせろ。明日会う予定の変態ジジィどもはやけに年齢にこだわるからな。急なんでフェイクの身分証明書はないけど,お前の見た目ならなんとかなるだろ」 「え……十六……? 馬鹿じゃないの……」  実際に彌生は二十一歳だったが,未成年を買う男にとって十六と二十一はまったく違うとわかっていた。
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