覚醒するモノ

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『なんなんだ……? あの化物は本当に俺なのか……? なんだよ……あんなのグロイ特撮としか思えないんだけど,なにが現実(リアル)なんだよ……』  混乱しながらも自分の置かれている状況を可能な限り冷静に判断しようと,何が幻覚で,何か妄想で,どれが現実かを必死に可能性を頭の中で整理しようとした。 「すっかり意識を取り戻しているようだね。随分と表情が豊かだ。まるで人間だな」  織田が覗き込むと満足そうに頷いて吸引された唾液が入ったガラス製の容器を手にした。 「まったく,山本さん。あなたは人類の医学の進歩に貢献する逸材であり,私を歴史に名を残す重要な存在だよ。君は一体なんなんだろうね? 本当に不思議だよ。血液検査をしても画像診断をしても,普通の人間なのに,その唾液……正確には体液は人間のものじゃない。そして,その異形の姿になることも,人間の姿になることも,こんなの一切の記録に残っていない。軍事大国が君の存在を知ったら,とんでもない人体実験の毎日だったよ。私に出会えてラッキーだったね」  織田がうっとりとした表情で饒舌に語り,大柄な看護師は黙って後ろで立っていた。 「残念なのは,私が外科医だってことなんだよ。山本さん,君の本当の価値が発揮されるのは恐らく内科だからね。不治の病として知られる悪性腫瘍やさまざまな難病に君の身体は無限の可能性を秘めている。ほんのちょっと患部に君の細胞を混ぜるだけで寛解率が急激に上がるんだよ。ただね,私は君をほかの医者と共有する気はない。私は私の専門分野,消化器外科の陵域で名を残すつもりだ」
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