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「それから,山本さんには朗報だよ。君の精子を採取する役割だったこのデブはお役御免だ。掬躬津彌生の存在をようやくだよ,十五年も掛かってようやく見つけたんだ。彼女は君の体液に耐えられる身体をもっている。なんせ彼女と君は完全にリンクしている。このデブと違ってね。よかったね,若い可愛い子で。ほんと,君が羨ましいよ」
大柄な看護師は驚き,自分の置かれている立場がわからず混乱した。これまで三十年近く織田に尽くしてきたのに,たったいま用済みだと宣言された。
「お……織田先生……どういう意味ですか? 冗談ですよね? なに言ってるんですか?」
織田は嬉しそうに振り返ると,鼻歌を歌いながら看護師に笑顔を見せた。そして,山本に近づくと,頭を固定しているベルトを緩め,口の中に突っ込まれているチューブを酸素マスクごと乱暴に抜き取り顎のベルトを外した。
「この十五年間,君の遺伝子を組み込んだ木偶たちを日本中にばら撒き,彼らにはありとあらゆる女を抱かせて人探しをさせていたんだよ。風俗,強姦,ナンパ,ありとあらゆる方法を使ってね。まぁ,全部私が理由をつけて用意した病院の経費でだけどね。そしてとうとう掬躬津彌生を見つけたんだ。しかも彼女と君,そして私はあの事故の時にリンクしていた! まさに運命だよ!」
嬉しそうに笑いながら取り外しが簡単にできるベッドの柵を握りしめると,スッと引き抜いて力任せに看護師の顔面を振り抜くように殴りつけた。
呆然と立ちすくんでいた看護師の目の前を柵が振り抜けると,鈍い音とともに鼻から下が綺麗になくなった。
「よいしょっと」
そして湿ったグチャっという音がした瞬間,二発目が頭を打ち抜き,顔の左半分がズレるように変形した。
「ふう……掬躬津彌生を見つけるために作ったというか,雇ったというか,まぁ人体改造手術を施した探偵たちが本当に役立たずでね。みんなすぐに掬躬津彌生と肉体関係をもちたがるんだよ。結果として何人も雇うことになったのは予想外だったよね。しかも最後のほうは,掬躬津彌生に彼ら全員がストーカー集団みたいに思われちゃってね。結局,私の木偶たちを動かした」
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