眷属なるモノ

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眷属なるモノ

 病院の非常階段をぎこちなく降りる二つの影は,知らない人が見たら重傷患者がなんらかの理由で病院を抜け出そうとしているようにも見えた。  真嘉内の身体は(いびつ)に変形しながら左腕に着いていた肉塊を傷口から少しずつ吸収していったが,それは真嘉内本人にも山本にも気づくことはできなかった。  山本は耳鳴りのなかに聞き覚えのない声がしたことに,まだ思い出していない記憶があるのではないかと不安になった。 『ニ……ゲテ……ニゲ……テ……ツカマ……ル……ヤ……ツラ……ガ……ヤツラ……ガ……クル……ニゲテ……』  微かに聞こえる声を思い出し,誰の声なのか,何を知っているのかを考えた。あまりにも小さな声だったので,それが男なのか女なのか,大人なのか子供なのかもわからなかった。 「奴らって誰だよ……誰に捕まるってんだよ……」  誰もいない病院の駐車場に出ると,月明かりを頼りにほぼ全裸で茂みを移動した。湿度の高い不快な茂みの中では素肌に蟲がたかり,脚や腕に痛みと痒みが襲われ,擦り切れた皮膚から身体に潜り込もうとする蟲が火傷したかのような熱い汁を垂らした。  既に二時間以上,鬱蒼(うっそう)とした深い茂みを歩き続けたが,常に視界の端に道路が見えるように注意を払って移動を続けた。 「ゼンバイ・オデェェ・ホボォォ・ハダカ・ナンデス・ガァ」 「おい……真嘉内。お前,そんな話し方しなくても,もう普通に喋れるだろ?」  ほぼ全裸のまま茂みを裸足で歩く姿は追い剥ぎにあった被害者でない限り,ただの露出狂にしか見えなかった。 「ゼンバイィィィ……ゼ,セ,センパイィィ……セン……センパァァ……せんぱい……せん……先輩……先輩!」  何度か噛み合わせを治しながら,発声練習をするように同じ言葉を繰り返した。筋肉で膨らんだ喉をマッサージするように両手で揉みほぐし,大きく口を開いて舌を出した。 「ああああ……ああああ……あっあっあっ。うん,先輩。なんどが,言葉をもどずごとができそうでず。まだ,ま,まだ,まだ,ちょっと調整が必要だと思い思い思いまず,思いますが。筋肉が喉が塞いで,口の中が詰まって……息苦しさが,ぢょっど残ってるって感じでず」 「よかった。せめてお前とのやり取りは普通にしたいからな」
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