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路地から大通りに出ると,まるで自分がいる世界とは違う表の世界に出たような気がした。ほんの数年前までは当たり前だった世界が,いまは自分がいてはいけない世界に思えた。
そのまま裕翔に連れられて再び繁華街の奥にあるラブホ街へと行くと,昼間はサラリーマンが休憩に使っているような小さな公園があった。公園の街灯の下にやけに大柄な三人の男たちが煙草を吸いながら立っていたが,裕翔に気づくと大袈裟に手を振った。
「彌生。お前の名前は紗耶だ。家出少女って伝えてある。金は終わってからお前がもらう。いいな」
裕翔は一方的に話すと三人がいるほうへと歩いて行ったが,裕翔が急に声を掛けて集まるような連中に彌生は警戒した。
街灯の明かりが三人を照らしていたが,表情は影になっていてよく見えなかった。それでも三人ともやけに大柄で筋肉質なのはわかった。
「よお……YOU……元気そうだな。またお前,新しい商売始めたんか? そのことを先生は知ってるのか? 女の斡旋なんてトラブルばっかりで大変だぞ?」
真ん中で外国産の臭いのキツイ煙草を咥えた年配の男が煙を吐き出しながら声を掛けてきた。一目で日本人でないとわかる男たちはやけに大きな腹をしていた。
「ご無沙汰してます,ムンフエルデネ(Munkh-Erdene)さん。これは趣味みたいなもんですよ。それに先生の了承も得てます。まぁ,今回はこの子の生活費を稼がなくちゃいけないんで,本人にしっかり働いてもらおうかと。それからある意味,試験みたいなもんです。これからこの子に生きる価値があるかどうかの」
左端のバトエルデネ(Bat-Erdene)が覗き込むように彌生を観ると,後ろで黙って立っている黒髪を一つにまとめたテムーレンン(Temuulen)に振り向いて嬉しそうに笑った。
「おいおいおい,テムーレンン,見てみろよ。めちゃくちゃ可愛いぞ。そこらへんの地下アイドルだって言われても信じちゃうぞ。YOU,お前,本当にいいのか? こんな可愛い子を商品にして?」
「壊さない程度に可愛がってやってください。三人同時に相手できるよう,全部の穴を開発済みなんで。もし満足してくれたらチップもお願いします。なんせ,俺は先生のところへ行く金が必要なんで」
三人は嬉しそうに談笑しながら無言の彌生の肩に手を乗せ,そのままラブホへと入って行った。
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