眷属なるモノ

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 何かに気づいた犬がゆっくりと引き下がるように富岡を引っ張ったが,富岡は顔を隠すようにしたまま黙って立っていた。  山本が近づいて来ると,下がろうとする犬の力に負けて身体を引っ張られ斜めに構えて一歩引いた。 「お……鬼……? そ……それ以上近くに来ないで。あんたたち,大きい声を出すよ!」 「急にどうしたのかな? 大声を出すってのは,どうゆうこと? 富岡さん,我々のことを知ってるよね? 我々は警察のモノだよ? 怪しいモノじゃないよ?」  犬がさらに低い唸り声をあげ,歯をむいて威嚇を始めた。 「う……後ろのお巡りさん……あんた,左腕どうしたんだい……? 昨日まであったよね……? そ,そんな……大怪我してるのに,出歩いて大丈夫なのかい?」  真嘉内の呼吸が荒くなると,筋肉が激しく痙攣したが山本はすぐ後ろにいる真嘉内の変化に気づかず,富岡と興奮している犬を見ていた。  山本と視線を合わせない富岡と犬の様子に気づいた瞬間に山本のすぐ脇をすり抜けるように後ろから真嘉内が飛び出した。 「え……真嘉内……?」  足の指が地面を掴むようにめり込む度に真嘉内の全身の筋肉が脈打ち,富岡に向かうスピードが上がった。右腕の鋭い爪が剥き出しになると,音もなく空を掴むよう富岡の首に触れた。  山本も理解できないほんの一瞬の出来事だったが,目の前で富岡の首が宙に舞った。 「な……?」
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