異形のモノ

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異形のモノ

 病院の最上階にある特別病室では,同僚の医師の治療を終えた織田が意識を取り戻していた。部屋の外には騒ぎを聞きつけて集まった警備員が整列し,廊下で向かい合うように看護師たちが待機した。  ベッドに寝かされた織田は,医師の指示のもと看護師たちが何度もバイタルサインを確認され,意識が戻ってからも丁寧に状態の確認を取られていた。 「織田先生,ご気分はいかがでしょうか?」  織田は横になったまま周りを見回してから心電図モニタに映る波形と腕に刺さる輸液チューブを見て自分の置かれている状況を理解した。 「そうか……私は生きてるのか。私を殺さなかったということは,奴は覚醒してる可能性があるな……そうなると,これは相当厄介になるかも知れない……。理性のある鬼か……」  看護師が織田の腕に刺さる針を抜くとアルコールの染みたガーゼを小さな傷口に充てた。 「掬躬津彌生は? 彼女は奴に連れて行かれたか?」 「いえ,掬躬津彌生は院内の特別室……マイナス百九十六度のあの部屋にいます。奴は彼女と……掬躬津彌生とは接触もしておりません」  すぐ横に立つ医師が直立不動のままゆっくりと答えたが,その目は虚で聞かれたこと以外には反応を示さなかった。 「そうか……活動停止させるためにあの部屋に入れておいて正解だったな。奴は彼女にまったく接触できなかったのか? 他になにか報告はあるか?」 「掬躬津彌生を見つける前に真嘉内俊行を見つけ,連れ去られました。しかも左腕になる予定だった山本さんの細胞から創り出した腕を切り落とした状態で」 「なんだと……」  横になる織田の表情が険しくなり,針が刺さっていた腕を爪を立ててカリカリと音を立てて掻いた。 「掬躬津彌生ではなく真嘉内俊行を連れて行っただと……。しかも鬼の腕を切り落として……。どういうことだ? これはもはや覚醒どころじゃないのでは……」
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