12人が本棚に入れています
本棚に追加
「月並交番の所内といいます。財布と本人を連れてきました」
そういうと、三人は手前の部屋に通された。
「ここで少しお待ちください」
本物の取調室だ。本来なら橋爪は〝これじゃ被疑者扱いだ〟と叫びたいところだが、何もやっていないが故に、滅多に入れない本物に微妙に心が弾む。
ーーあの鏡の向こうに警察や目撃者なんかがいるんだよな。
「しかしまぁ。財布の持ち主も、財布のなかにあんなに札を入れるって趣味悪いよな」
待っている間、所内が本音を漏らす。
「所内さんもそう思います? そうですよね、今や時代はキャッシュレスですよ。あれじゃあ金持ち自慢みたいで、逆に取ってくれと言ってるようなもんですよ」
「だよな。俺ならさーー」
「あの……。お話し中悪いんですけど、僕は盗んでいませんからね。月並商店街の抽選会に行っただけで、そしたら一等が当たってーー」
「えっ! 君、一等当たったの? スゲェ!」
「一等の商品って何なんです?」
「例年、旅行だよ。いいなぁ、うちのカミさんなんか、何個ティッシュを持ってきたことか。ワハハハ」
最初のコメントを投稿しよう!