Escapism

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Escapism

 朝テレビのスイッチを入れると、ニュースキャスターが「おはようございます。世界の終わりまであと七日になりました」と言う。  僕はそれに別段驚くこともなく、ハムエッグ味のドロップを咥内で転がした。  だってこれを見るのは、今日で七回目だから。  無反応になったところで、仕方がない。  飽きもする。  またこれか、と。  ちなみに明日は、同じテレビから同じ時刻に「おはようございます。世界の終わりまであと六日になりました」と、ニュースキャスターが読み上げて、明後日は「おはようございます。世界の終わりまであと五日になりました」とニュースキャスターが読み上げる。  そうして、ついにカウントダウンがゼロになった日の朝には「おはようございます。世界の終わりの当日になりました」とニュースキャスターが告げる。  その日、まさしく世界は終わりを告げる。  テレビ画面が消えるようにブツン、と。  だけど、僕にはなぜか引き続き七日前の朝がくる。  たしかに終わったはずなのに。  この七回目の一週間を過ごせば、僕には八回目の世界の終わりがくるんだ。  どうして世界が終わるのかは、よくわからない。  終わると決めた人がいたらしい。  僕にはよくわからないけれど。  誰かがそう決めたらしい。  だから、世界が終わった。  だけど、僕はなぜだか、ただ一人終わりを迎えられないでいる。   「──と、いう夢を、見て、いたんです、医者(せんせい)」    僕はベッドの上で、目の前の白い服の女性に向けて、ゆっくりと一言一言を確かめるように言葉を紡いで伝えていた。  それを聞く彼女は、なぜか酷く悲しそうにしている。  どうしたのだろうか。  もしかして医者ではなく看護師だっただろうか。  まぁどっちだっていいじゃないか。そんなもの細かいことだ。  だいたい、僕は悪夢から覚めたのだから、もっと喜ばれてもいいはずなのに。  どうしてそんなに浮かない表情をするんだろう。  なんとなくいたたまれずに身動ぎすれば、細いチューブが揺れた。  それは僕の左鎖骨下から伸びているようだった。  辿るように見上げれば黄色の袋を被ったパックがぶら下がっている。  あれ? 僕は一体どうしたんだろう。    ふと彼女の奥でついていたテレビを見遣れば、ニュースキャスターが「おはようございます。世界の終わりまであと七日になりました」と言った。
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