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黒い犬は泥汚れがついてはいたが、熱々のシャワーで洗ってやるとあっという間にキレイになった。そのあとドライヤーをかけたが、洗っているときと同様に大人しいもので、案外犬を飼うのは簡単なのではないかと感じていた。
その後、温かいリビングで犬を開放すると、部屋の隅に逃げ込んで僕を窺う。
その感覚、わかるよと心の中で語りかける。助けてくれたからって本当に味方かなんてわからない。一過性の正義心なんて、いつ消えてなくなるかわからないじゃないか。
TVラックと壁の隙間に収まる犬に手を差し伸べてみた。かなり距離があるが、君は見ないふりをしつつ鼻をひくひくさせてみせる。興味はある。でも怖いといったところだろう。助けを求めてきた割には信用していないらしい。
「お前ら、いい加減にしたら?」
青島は群れない男で、かと言って嫌われ者でもなく、ヒーロータイプでもない。そんな彼が僕の運動神経を笑い者にする奴らに放った一言。クラスに落とされた一言は水面に落とされた墨汁みたいだ。ポタリと落ちて薄まりながらではあるが見事に広まる。
「誰にだって苦手な事とかあるじゃん」
続けてそう言うと救ったはずの僕を叱りつけた。
「お前も嫌なら嫌って言えよ。ヘラヘラすんな」
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