時計はなんのために存在するのか,それはこの世の終わりをカウントダウンするため

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 もう娘の姿を家の中で感じることはなくなってしまった。娘の部屋を開けたら,ベッドで横になってスマホをいじる姿が想像でき,何度もドアをノックしては部屋を覗き込んだ。  トイレにいるような気がして,慌ててトイレに向かったこともあった。お風呂の順番が気になり,いない娘を大声で探した。  ご飯の量がわからなくなり,いつまで経っても娘の分を食卓に並べてて誰もいない席にずっと話しかけた。  娘を失って,どれだけのことが当たり前だったのか,些細なことでパニックになり,心が破裂してしまうような不安が常に降り注いだ。  どんなに時間が経っても,この不安と悲しみが癒えることはないと確信だけはしていた。そして娘の命を奪った高齢者が健康を理由に刑務所に行かないで済んだことも許せなかった。  被害者よりも加害者を大切にする法律に怒りとやるせない気持ちが交錯し,娘以外のことはどうでもよくなっていった。  娘が大好きだった少し不気味なキャラクターの時計がコチコチと鳴り続き,静まり返った家の中で一秒一秒荒んだ心を刻んでいった。
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