かぐや姫の住む街

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              第16章  7月5日の夜。あの時、イケメン君は私にこんなことを話した。 「初めまして、瑠奈さん」 普通にシャツとジーンズ姿の、ちょっとイケメンな青年。半透明の蒼い光の彼が突然、私に話しかけてきた。この状況に私はパニックになってもおかしくなかったのに、不思議と恐怖は感じなく、気持ちも落ち着いていた。 「あなたは誰?」  私は冷静に聞いた。イケメン君は私の問いには答えずに、別のことを話し始めた。 「18年間という長い間、ご苦労様でした」 「はい?」 「7月7日。午後9時ちょうどに、僕は君を正式に迎えに来るからね」  イケメン君が微笑んだ。私は無表情のままでいた。イケメン君は深呼吸をした。 「君はね、『コレクター(collector)=情報収集員』として18年間、地球で過ごしたんだ」 「18年間? コレクター?」  さすがの私でも、何のことかよくわからない。 「そう。これから君は僕たちの星に戻って、この地球に住んでいる人類を審判するんだ。 『ディレクター(director)=審判員』としてね」  ますますわからない。とりあえず私は反撃出来そうなことを言った。 「君の星に戻るって?! 私はこの星で生まれ、そしてずっとこの街に住んでいるの。それに、ひとつ言っておきます。あなたが異星人なら、日本語や英語を使うなんておかしいわ。そして何、その格好」  イケメン君が笑った。 「言葉や格好は、君の意識レベルに合わせてるんだよ。僕と君は、もともと同じ人類。基本、同じ遺伝子を持っている。僕は異星人なんかじゃないよ。あっ、ちなみにこれは3Dホログラム画像。実際の僕たちは君たちと同じ肉体を持っているから安心して」 「なんか釈然としない」 「無理もないよね。でも君は理解するはず」 「そうでしょうか」 「この地球に住む人類は、遠い昔、僕たち『真(しん)人類』の祖先が遺伝子を操作して誕生させ、地球に移植した人類なんだ。心と体が神レベルで自然と調和する遺伝子を持っている」 「そんなこと、にわかに信じられると思う?」 「だよねー。でも遠い昔から、僕たち真人類は、地球に移植した人類を監視し続けてきたんだ。そして必要に応じて導いてきた。突如現れた古代文明なんかも僕らの試み。あれはちょっとやりすぎた。でも、基本、僕たちは人類が間違った方向に進んで行かないように常にコントロールしてるんだ」 「あなたたちも一緒にこの地球に住めばいいじゃない」 「ナイスつっこみだね! 僕たち真人類は知的には高度に進化したんだけど、その代償として、免疫が極端に弱くなってしまったんだ。残念ながら僕たちは今の地球には住めない。でもいつかは地球に移住したいと考えているよ」 「高度なテクノロジーって言っても、その程度のものなのね」 「僕たちは神ではないからね。物理学的には全てを知り尽くしたとしても、生命についてはまだ分からないことだらけさ」 「で、最初に君が言ったこと。私が『コレクター』で君の星で『ディレクター』になるってどういうこと?」 「僕たちは定期的に、人類に真人類の遺伝子を送り込んでいる。そうして生まれたのが『ハイブリッド』。『ハイブリッド』はIQは控えめだけど免疫力は人類に近く、地球でも普通に生きていける。『ハイブリッド』は、僕たちのテクノロジーの最高技術で遠隔で誕生させた、とても貴重で崇高な存在なんだ。そして、この地球で生まれた『ハイブリッド』が『コレクター=情報収集員』として18年間過を過ごす。君はもうわかったよね?」 「まさか!!」 「そう。適格な女性の子宮に、僕たちの遺伝子を送り込んで生まれた。君は、真人類と人類の『ハイブリッド』ってこと」  私は言葉を失った。
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