かぐや姫の住む街

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              第17章 「地球の人類として生活した君たち『ハイブリッド』が、今度は真地球から人類をコントロールするんだよ。人類にとっては神に近い存在。『ディレクター』」 「私、真地球なんかには行かない。地球に残る!」 「君には選択肢はないよ。でも安心して。君は地球にはいなかったことになる。人の記憶から消え、物理的な情報は書き換えられる。真地球に来れば寿命が倍くらいに伸びるし、病気もなく、いざこざもない。精神的にもとても開放される」 「私はお母さんのことが心配なの」  私は咄嗟に、でもとても大切なことを彼に言った。 「彼女のことは心配しないで。全て苦労のないように記憶や物理情報は書き換えられる。十分な財産もね。それに約束しよう。地球に異変が起こったとしても、彼女は安全に暮らせるような場所へ連れて行く」 「それは、ありがとう」 「君たち『ディレクター』の権力は神レベル。君たちが必要だと思えば、人類の半分を死滅させることもできる」 「そんな恐ろしいこと・・・」 「恐ろしくなんかないよ。人類が暴走して絶滅するのを見ているよりはまし。最近の人類の行動には、ちょっとがっかりしていてね。そろそろ判断しないといけない時期に来てるんだ。ゴミにしかならないペットボトルを作り続けて、海に大陸並の巨大なプラスチックごみの塊を浮かばせている。そんな人類をほっとけないでしょ? 温暖化もそう。いずれにしても、このままでは地球がおかしくなっちゃうよ」 「環境問題のことは知っているわ。でも・・・」 「君を入れて『ディレクター』は13人。君たちの判断次第では人類の形態を大きく変えることになる。僕たちはすぐにでも地球に天変地異を起こすことが出来るし、神が地上に降りたふりをして人類に英知を授けることもできる」 「それを、たったの13人で決めるの?!」 「そうだけど」 「じゃあ私は、人類に英知を授けます」 「残念だけど、今はどちらかというと人類に制裁を与える時期なんじゃないかってことになってる。微妙な状態だよ。いずれにしても僕たちは、13人の『ディレクター』の判断には従う」  私は絶句してしまった。 「僕たちの星、真地球の自然は完全に失われてしまった。今はすべて人工物。真地球は宇宙空間に灰色に鈍く光って浮かんでいる。僕たちの祖先は豊かな自然を求めて、広い銀河系の中からこの地球を探し出した。僕たち真人類は、神が与えた試練として、神が理想とする、自然と人間が調和した世界を実現しなければならない。僕たちは地球を神の理想の国にしたいんだ」 「あなたたちにも、『神』って概念があるのね」 「『神』は存在する。人類が進化すればするほど、それは確かに感じるよ」 「感じる?」 「じゃあ約束の時間に迎えに来るから」 「はい」 「妙に素直だね。わかってくれて嬉しいよ」 「これは私には選択肢なんてない件、なんでしょ?」 「たいした度胸、さすがだね。じゃあ7月7日、午後9時だよ」  私が頷くと、イケメン君は丸い蒼い球になって、私の前から消えた。私の意識ははっきりとしていた。これは夢ではない。  「私は、人類を操るために生まれてきたの・・・? 何それ・・・」  私はベッドから降りてカーテンを開け夜空を眺めながら、そうつぶやいた。  私は、私を苦労して育ててくれたお母さんを幸せにしてあげたくて、たくさん勉強してきた。奨学金をもらって、いい大学に入り、いい会社や組織に入れば、お母さんを楽にしてあげられると思っていた。それだけが生きる目的で、私は自分のことなどどうでもよかったのだ。イケメン君がお母さんのことを約束してくれるなら、その方がいいのかもしれない。  私はこの地球にいなかったことになる。私はこの街にいて楽しいと思ったことはない。私がこの街にいてもいなくても、誰も気になんかしない。 「寛君・・・」  私はふと、寛君のことが脳裏に浮かんだ。そしていつもとは違うことをしてみようと考えた。今更だけど彼、付き合ってくれるかな? 7月7日。花火大会がある。私がこの街にいる最後の日に。
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