イヤイヤお受験。

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イヤイヤお受験。

 ガサツでお(てん)()で男勝り。――それが両親による、幼い頃からのあたしの評価だった。  確かにあたしは小さい頃から髪を長く伸ばしたことがないし(それは絶対に似合わないと自分で分かってるからだ)、背も高かった。生まれた時の体重は四キロ近くあって、健康優良児だったらしい。  そんな外見上の特徴と、大ざっぱで負けず嫌いな性格も相まって、そういう評価になったのだと思う。  あたし自身はそれでもいいと思ってたし、そもそも一方的に〝女の子らしさ〟を求められるなんて今どき時代遅れだ。  でも、両親はどうやらそうじゃなかったらしい。――特に、父が。  父は東京(とうきょう)新宿(しんじゅく)副都心に経営コンサルティングの事務所を構えている。母もそこで経理や事務の仕事をしていて、いわば共同経営者みたいな感じだろうか。で、事務所の業績はかなりよく、儲かっているらしい。そのおかげで、中川家はけっこう裕福な暮らしを送れている。  ……まあ、早い話があたしも一応〝お嬢さま〟のカテゴリーに当てはまるわけで、父にしてみれば一人娘のあたしに〝お嬢さまらしさ〟や〝女の子らしさ〟を求めるのもごく当然の感情だったといえる。  そして、それを露骨に口に出して言われたのが、あたしが公立の幼稚園の年長組にいた秋の頃だった。 「――里歩、お前は小学校から女子校に入りなさい」 「えーっ、なんで?」  あたしが通っていた幼稚園は公立小学校に隣接していて、あたしも卒園後は当然他の友達と一緒にそこの学校に通うものだと思っていた。ちなみに、友達はほとんどが男の子だったのだけど。 「『なんで』じゃない。お前はもう少し女の子らしくなった方がいいんだ。小学校からは私立の女子校に入って、女の子の友達に囲まれて、周りの子たちから女の子らしさを勉強しなさい」 「――お母さんもそう思う。女の子ばっかりの学校も、きっと楽しいわよ? 制服だって可愛いし」 「むー……」  母まで父に便乗してそんなことを言ったので、あたしはあからさまに不機嫌な顔をした。  今でもそうだけど、あたしは制服以外でスカートなんてほとんど穿()かない。幼稚園の制服は仕方なかったけど、小学校に上がった後まで制服でスカートを穿くなんて冗談じゃなかった。  公立の小学校なら、私服だからパンツルックで通うのも自由だったのに。 「ただ、それにはお受験のためにお勉強しないといけないんだけど――」 「ええ~~っ!? おべんきょうやだ! おじゅけんなんてやだ!」  〝受験〟〝勉強〟の言葉を聞いた途端、あたしはその場でダダをこねた。 
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