お皿との戦い。(『おさらをあらわなかったおじさん』より)

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お皿との戦い。(『おさらをあらわなかったおじさん』より)

 私は皿を洗うのがめんどくさいと思うダメな大人です。  毎食後いつもぐだくだな感じで皿を洗いながら、「これが猫なら皿を舐めておしまいなのに…」と何度繰り返したか解らない泣き言をこぼす日々。  それでもなんとか洗うよう己に課している理由は、ひとえに黒いあの御方と遭遇したくない…それだけでございます。  ということは、御方の現れないような地域に住んでいたなら…。  怠けていたかもしれませんね。  そもそも独り暮らしだったならば、ぐうたらな私のこと、鍋から直接食べたりしていたかも…いや、作ることすら面倒でその辺のお菓子をつまんでおしまい、なんてことが続いただろうなあと思います。  今は家族がいるのでぎりぎりなんとかもちこたえ細々と家事をしていますが、彼が出張などで不在の折はダメ大人全開になる女。それが私・・・。  しかし、そもそも皿を洗うのが好きな人ってどのくらいいるのだろうか。  多分、それほどいないから食洗器なんてものが世の中に存在するのだ。  そうにちがいない。  そして体調や精神状態を顕著に表すのが、洗濯掃除皿洗いなのではないでしょうか?  面倒になった時、どれを放棄するのか…。  それは、その人の気の持ちよう…かな?  そのようなわけで、今回紹介するのはそのものずばり。  『おさらをあらわなかったおじさん』 岩波書店   フィリクス・クラバラフスキー 文/バーバラ・クーニー 絵/光吉夏弥 訳  あらすじとしては、だいたい以下の通り。  主人公のおじさんは独身暮らし。  文章には出てきませんが、黒猫一匹が相棒のようです。  (挿絵のバーバラ・クーニーが勝手に付け加えた仲間かもしれませんが)  彼は料理が大好き、食べるのも好き。  そんなある日、お腹を空かせて帰宅して、勢いのまま豪勢な晩御飯を作りました。  たらふく食べた後、張り切り過ぎてとてもくたびれていたのと、お腹いっぱいではち切れそうなのとで、明日の晩洗えばいいやと流しに汚れ物を放置してしまったのが運つき。  翌日から「明日になったら洗おう」と思う癖がついてしまうのです。  家じゅうの食器を使い尽くしても、部屋のあらゆる場所に汚れ物が積みあがっても、どんなに生活が不自由になってもおじさんは皿を洗いません。  しまいには台所も隠れてしまい、灰皿やせっけん入れ、地下室から未使用の植木鉢や花の活けてあった花瓶なども食器代わりにしてしまってもまだ洗わない。  さすがにもう使えるものがないなと途方に暮れていたところ、家の外が土砂降りに。  そこでおじさんはひらめきました。  雨に洗わせたらいいんだ!!  そんなわけで、汚れ物を片っ端からトラックに積み始めます。    以前にこの絵本を読んで、私が覚えていたのはここまでだったのですが・・・。  なぜか、雨に皿を洗わせたおじさんは己の思い付きに大満足して終了・・・と思い違いをしていまして。  『あたまをつかった小さなおばあさん』的な話と思っていたのですよね。  (『あたまをつかった小さなおばあさん』 福音館書店   ホープ・ニューウェル 作 / 松岡 享子 訳 / 山脇 百合子 画 )  それとはちょっと違う結末を迎えたおじさん。  何がどう違うのかは、実際に絵本を開いてのお楽しみとしましょうか。  ちなみに、挿絵のバーバラ・クーニーは色々な仕事を手掛けていますが、その中でも印象に残る二冊を紹介します。  これからの季節ならば、『ちいさなもみのき』。  マーガレット・ワイズ・ブラウンの文章に挿絵を描いています。    (『ちいさなもみのき』 福音館書店   マーガレット・ワイズ・ブラウン 作 / バーバラ・クーニー 絵 / かみじょう ゆみこ 訳 )  そして、なんといっても壮観な『ルピナスさん』。  こちらは文章も絵も手掛けています。   (『ルピナスさん』 ほるぷ出版   バーバラ・クーニー 作 / 掛川 恭子 訳 )  バーバラ・クーニーの挿絵があってこそ、ただの無精者だったおじさんがちょっと面白くて愛らしい存在になれたのではないかなと思います。  ちょっとダメダメなおじさんの、ダメダメな数日間。  子供が読めばきっと「あーあ」と呆れかえるかもしれませんが、大人が読んだなら「わ、わかる・・・わかるよ、おじさん」と共感を持つのではないでしょうか。  大人になってもお勧めな一冊です。
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