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車を走らせ、飲食店が並ぶ通りに出る。この辺りに開かれている店は、儲けより趣味の延長という経営者が多かった。なので閉店が早い。信次達は、かろうじて閉店間近の蕎麦屋に滑り込めた。
ざるそば三人前と天ぷらを頼む。スマホを取り出そうとした蓮を、信次は軽く睨んだ。スマホを取り出すのをやめた蓮は、手持ち無沙汰な様子で、店内を見回している。
「優希、鍋からはみ出てたものって何だった?」
「さあ……。なんか、動物の足みたいだったけど」
「げぇ。なんだよ、それ」と舌を出した蓮が、気持ち悪そうに顔を歪める。
「蓮、昼間、何か変わったことあったか?」
蓮は思い出すような素振りをする。
「あんま見てないから分からないけど、何もなかったと思う」
「朝、父さんと優希が散歩に出かけた後は」
「テラスには出てた」
「お昼ごはんは、普通だったの」と優希。
「サンドイッチだったけど、たぶん買って来たやつ」
「そうか」と信次は考え込む。
どうもおかしい。いつもの彩矢らしくない。それに料理についての否定的な意見は、もっと不満げにするのだが、どちらかと言うとけろっとしていた。
「嫌がらせじゃない」
優希が、ぽつりと言う。信次は「まさか」と笑い飛ばす。
「なんで、嫌がらせなんかするんだよ」
「知らない。なんかにむかついたんじゃない。だから、わざとまずい料理作ったんだよ」
「わざと、ねぇ……」
わざととは思えなかった。わざとなら、もっと態度に現れるはずだ。どちらかと言うと、ぽかんとしていたように思う。それにわざとなら、あの味はやり過ぎだ。
その後、蕎麦が運ばれてくる。蕎麦を腹に入れて、信次達は店を後にした。
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