坂から下りてきたら

12/42
前へ
/42ページ
次へ
 車を走らせ、飲食店が並ぶ通りに出る。この辺りに開かれている店は、儲けより趣味の延長という経営者が多かった。なので閉店が早い。信次達は、かろうじて閉店間近の蕎麦屋に滑り込めた。  ざるそば三人前と天ぷらを頼む。スマホを取り出そうとした蓮を、信次は軽く睨んだ。スマホを取り出すのをやめた蓮は、手持ち無沙汰な様子で、店内を見回している。 「優希、鍋からはみ出てたものって何だった?」 「さあ……。なんか、動物の足みたいだったけど」 「げぇ。なんだよ、それ」と舌を出した蓮が、気持ち悪そうに顔を歪める。 「蓮、昼間、何か変わったことあったか?」  蓮は思い出すような素振りをする。 「あんま見てないから分からないけど、何もなかったと思う」 「朝、父さんと優希が散歩に出かけた後は」 「テラスには出てた」 「お昼ごはんは、普通だったの」と優希。 「サンドイッチだったけど、たぶん買って来たやつ」 「そうか」と信次は考え込む。  どうもおかしい。いつもの彩矢らしくない。それに料理についての否定的な意見は、もっと不満げにするのだが、どちらかと言うとけろっとしていた。 「嫌がらせじゃない」  優希が、ぽつりと言う。信次は「まさか」と笑い飛ばす。 「なんで、嫌がらせなんかするんだよ」 「知らない。なんかにむかついたんじゃない。だから、わざとまずい料理作ったんだよ」 「わざと、ねぇ……」  わざととは思えなかった。わざとなら、もっと態度に現れるはずだ。どちらかと言うと、ぽかんとしていたように思う。それにわざとなら、あの味はやり過ぎだ。  その後、蕎麦が運ばれてくる。蕎麦を腹に入れて、信次達は店を後にした。
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加