10人が本棚に入れています
本棚に追加
二時間たっぷりプレイして、信次と優希はコートを後にした。熱気のこもった駐車場の車に乗り込んだ信次は、クーラーを強にして、急速に車内温度を下げようとする。暑さに辟易しながら、時計を見た。午前十一時二十三分。信次は、助手席の優希に提案した。
「昼飯食べて帰るか」
「お母さんと蓮は?」
「電話しておくよ。たまには二人で好きなもの食べよう」
「いいよ」と優希は嬉しそうに言う。
信次はスマホを取り出し、彩矢に電話をする。
「もしもし、俺だけど。優希と飯食って帰るから。いいだろ」
『いいわよ』
信次は電話を切って、エンジンをかける。
「よし、何食べたい?」
「ハンバーグが食べたい」
「いいぞ」
信次は車を発進させた。
ステーキハウスで昼食を済ませ、信次は次にアイスクリーム屋に向かった。そこで昨日の約束を済ませてから、別荘に戻る。
車の中で、唐突に優希が吐露した。
「お母さん、わたしのこと嫌いなのかな」
信次は驚いて、優希を一瞥する。
「まさか。そんなこと、あるわけない」
「だって、テニスにも来なかったし」
「ただ疲れてるだけだよ」
優希は感情を押し殺すように黙り込む。心配した信次は続けた。
「優希を嫌いだなんて、あり得ない。ただ、うまくいかない時っていうのはある。時間が経てば解決することもあるから、あんまり気に病むな」
「……うん」と優希は頷く。元気のない優希に、信次はなんとなく自分の話をした。
「お父さんにだって、うまくいかない時っていうのはあるよ」
「そうなの?」
「ああ。いくら売り込もうとしても、話も聞いてもらえないこととかな。そうなるとお父さんより偉い人の機嫌も悪いし、最悪だ。そういう時って焦るよな」
「うん」
「けどな、そこで焦らず、機会を待つんだ。いずれ機会がやってくる。それを見逃さないようにしながら、じっと耐えて待つ」
「わたしも待てばいいの?」
「耐えなければならない期間というのは、必ずあるってことだ。苦しいけど、苦しんだ分だけ、その後の状況に良いところを見出せるからな。難しいかな」
「ううん。分かった」
「そうか」と信次は笑う。
「優希は賢いな」
優希は、少しだけ照れくさそうにした。
最初のコメントを投稿しよう!