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「生まれ変わってから七年余り。結局、真衣は別の男と結婚してしまったな」
中身の残っていない缶を傾けたまま、杏は言った。
「花嫁をさらって逃げるとかは考えなかったのか?」
「死神が人間界の映画を知ってるのか?」
「暇つぶしに見ることはあるな。新郎から奪う方法だっていくつかあるだろう? 真衣と結婚するつもりだったのではなかったのか?」
杏が披露宴で陸斗として言った内容について触れているとわかり、陸斗は苦笑した。
「結婚……するつもりだったよ。『オレは優馬だ』って正体を言いたかったよ。でも、もしわかってくれたとして……、陸斗が大人になるまで真衣を待たせたら真衣は何歳になるんだよ」
「まぁあと十年はかかるな」
「杏から、真衣は優馬が死んでからずっと泣いてるって聞いただろ? 真衣を泣かせるわけにいかないかな、だから転生しなきゃって思った。でも時間はかかったけど、真衣はちゃんと前に進んでた。豊の隣で真衣は幸せそうだった。それを見届けることができて本当によかった」
「そういうものなのか? 強がりではないのか?」
「強がりとかじゃなくてさ。オレを引きずることなく、幸せになった真衣を見ることができた、それだけでもう思い残すことはないよ」
「これで人生が終わるわけではないとさっきも――」
「いや」
陸斗が杏の言葉を遮った。
「杏」
「なんだ?」
微かな風が木々の葉を揺らし、葉が擦れる音が響く。杏は陸斗が言おうとしていることが何なのかわからなかった。
「オレの記憶から、真衣への思いだけを消すことはできるかな?」
その言葉を聞いた直後、一瞬だけ目を見開いた後に杏は腹を抱えだすと「オマエは本当に面白い奴だな」と笑った。
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