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エピローグ
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「すごくキレイだね」と茶色の長い髪をした女性が隣の男性へと微笑む。
壮麗な門を抜けて、滑らかなカーブを描く石畳を歩き二人は式場に入っていった。この日、二人は結婚式場の見学に訪れていた。
受付を済ませると「担当の者が参りますので、そちらにお掛けになっておまちください」と案内された椅子に二人は腰かけた。窓の向こうから見える眼下のプールや西洋のお城のような景色に女性は目を輝かせていた。そんな彼女の様子を見ながら男性は微笑んでいた。
「お待たせいたしました」
女性の声に二人が前へと向き直る。そこにはウェディングプランナーと思わしき黒髪の女性が立っていた。
「本日、ご担当させていただきますプランナーの木下杏と申します」
そう名乗った女性は名刺を差し出した。男はその名刺を受け取り、書かれた名前に目を落としていた。
「どうしたの、陸斗?」
不思議そうに隣に座る女性が、男性の顔をの覗き込む。
「いや、なんだか知っている名前のような気がするんだけど……思い出せない。あ、変なことを言ってすいません。西條です。よろしくお願いします」
陸斗は立ち上がり、杏へと頭を下げた。隣に座っていた女性もそれに続き、頭を下げた。
「ではご案内しますね、こちらへどうぞ」
楽しそうに笑いあう二人を見ながら杏は柔らかな微笑みを浮かべた。
その微笑みにどこか不思議な懐かしさを感じながら、陸斗は隣に立つ愛しい女性の手を握った。
そして、杏の案内する先へと二人は歩き始めた。
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