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『それでは、これより新婦・真衣様の甥御様である西條陸斗様よりお祝いの言葉をいただきたいと思います。陸斗様は現在、小学二年生、真衣様とは――』
司会が陸斗の紹介を読み終わる前に、陸斗は立ち上がった。後ろに控えていた杏が立ち上がることに不自由がないようにと椅子を引いた。陸斗は杏へと振り返り、「ありがとう」と言った。
「頑張って」と杏が小さな声で言うと、陸斗は少し笑みを浮かべて頷いた。
スポットライトを浴びながら、拍手の雨を浴びながら、唇を真一文字に結び陸斗は歩き始めた。
真衣が待つ高砂席の横に設置されたマイクスタンドに着くと、陸斗は深々と頭を下げた。顔を上げると真衣の顔には優しい微笑みがあった。いつもとは異なるブライダルメイクではあるが、陸斗がよく知っている微笑みだった。
陸斗はこの日のために母がオーダーメイドで用意したスーツの内ポケットから白く折りたたまれた紙を出した。その紙をカサカサという音を立てながら開く。後ろに付いてきた杏がマイクスタンドの高さを微調整していた。
一つ咳払いをして、陸斗は息を吸い込むように口を開いた。
『大好きな真衣ちゃんへ――』
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