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「でもまぁ……その悪趣味な死神のおかげで、今日は大満足だよ」
「そういうものなのか?」
「うん。もう……、思い残すこともないよ」
「そうか……。しかし、まだ人生は終わりではないぞ? 『西條陸斗』の人生はこれからだぞ? 『比嘉優馬』としては終わったがな」
少年――かつて、比嘉優馬だった男――は、「ああ」と一言発して、しばらく間を開けてから「そうだな」と小さな声で言った。
「杏には感謝してるよ。死んでしまったオレを転生させてくれたんだから。禁呪法まで使ってさ、しかも見つかったらヤバいやつ」
「見つかったら危険なことをするから面白いのだ。オマエに感謝される覚えはない」
コーヒーを飲み干してから杏は言った。
*
比嘉優馬は、わき見運転のトラックから幼い母子を庇い、不慮の死を遂げた。死後、優馬の担当に就いた死神が杏だった。
死を理解した死者のほとんどは怯え、震え、発狂する。それはもはや杏にとっては見飽きた光景だった。しかし、優馬は異なっていた。
「……あの母親と子供はどうなった?」
死に至っても自分が助けた母子を心配する優馬を見て、杏は声をあげて、身をよじらせて笑い転げた。
「オマエは面白い奴だな」
杏はそれから優馬に興味を持つようになった。
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