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 優馬の担当となった杏は、優馬の人生の軌跡を調べた。  優馬と杉山真衣は、小学校時代からの同級生だった。同じ中学、同じ高校に進んだ二人は、高校一年の冬につきあいだした。  お互いが、自分の人生でこれ以上、自分のことを理解してくれる存在がいるとは思えなかった。 「初めてデートしたのは広い公園だった。芝生の上で二人でお弁当を食べたんだ。今でも覚えている」  優馬は語った。微笑みながら、そしてどこか遠くを見ながら語った。 「金色の朝焼けが見えるっていう雨晴海岸ってところがあってさ、真衣がいつか行きたいって言ってたんだ」 「そこへは連れて行ってやれなかったのか?」  優馬はその問い自体には答えなかった。 「いつか生まれ変わったら、また真衣をみつけて、今度こそ連れていくよ」 「生まれ変わっても、またその娘に恋をすると?」 「生まれ変わっても、また真衣を好きになる」  自信に満ちた目を持つ優馬に、杏は「ふむ」と言って左手で自分の顎を触った。 「では、生まれ変わってみるか?」  杏の言葉が何を意味するのか、優馬にはわからなかった。 「もう一度、生まれ変わってもあの娘を好きでい続けることはできるのか、私に見せてみろ。新たな人生でも、オマエの恋は続くのか私に見せてみろ」 「でも、オレはもう死んでしまって……」 「転生する方法はある」  それが禁呪法だった。  死者の魂を現世に転生するその方法を使えば、輪廻の輪を潜らずとも、前世の記憶を持って生まれ変わることができる。 「まぁ見つかったら私の命も危ういがな。それだけ禁断なんだ」 「そんな禁呪法をなぜオレに?」 「ただの興味だ」 「え?」 「死神の人生は長い。そんな人生でつまらないものばかり見る。オマエは面白い。それだけだ」  杏は微笑んだ。どこか恐怖を感じ、優馬は背筋に寒気を感じた。 「どんな形で転生するかは私にもわからんが、オマエの思いを私にみせてみろ」  こうして、禁呪法を通じ、優馬は現世へと舞い戻った。前世での記憶を持って。  ただし、真衣の甥御としての転生だった。二人にはニ十歳以上の年齢差があった。  声を発することもできない新生児室で空中に浮かぶ杏に、優馬は「転生って真衣の甥っ子かよ」と心の声で訴えた。 「すまん。私もこの禁呪法を使ったのは初めてだったのでな。まぁ人間たちも言うではないか。『障害があるほど愛は美しい』と。また真衣には会うことができる」  その言葉は正しく、優馬はすぐに真衣に会うことができた。以前と変わらぬ笑顔をくれた真衣を目に映したとき、優馬の目から涙が止まることはなかった。かつての自分とは異なる名前・陸斗と呼ばれても、真衣の声を聞くことができるだけで嬉しかった。
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