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episode夏 向日葵
大学受験や就職試験を控えている高校3年生には夏休みがない。
日中は補習があって夕方からは塾。土日は模試。ずっと、この繰り返しだった。
よく恋愛漫画である高校最後の夏休みに好きな人と夏祭りデートだとか友達と海水浴とかなんて展開は受験生の七海には用意されてなかった。
いつものように補習を終えると、就職組の友達と別れ高校と自宅の中間にある進学塾に向かって自転車を走らせる。
七海の通う進学塾は、付近の普通科高校に通う大学進学を目指す生徒が通う進学塾だ。この近くだと、七海の通うS女学園以外には公立高校の東城高校や石牧高校の生徒も通っている。
S女学園は、ピンからキリまでいる私立高校だから目指す進路もバラバラで頭の良い子達は大手企業に就職したり難関大学に合格したりする子も毎年何人かいる。逆にキリの子達は、S女学園大学に内部進学をしたり小さな企業に就職したりする子が多い。
そんなS女学園のピンとキリの中間にいる七海は、植物が好きで理科(特に生物)が得意という漠然とした理由で県外の七海の成績でも狙えそうな国立大学の農学部を目指している。
将来なりたい物もなければ特にこれといって勉強したいこともない。強いて言うなら小さい頃から興味のある植物のことを学びながら県外に出て一人暮らしをしてみたい。そんな理由で担任の先生にここなら頑張れば合格すると言われた国立大学農学部を目指していた。
近くを歩いているS女学園の子達が学校の最寄りの駅がある左方向に姿を横目で見ながら七海は自転車を直進に走らせた。本当は自分だって家に帰りたい。家に帰ってたまにはゆっくりドラマを見たり受験前に封印したゲームをしたりしたい。
「憂鬱だなぁ」
そう呟いた七海の先にはもう塾の看板が見えていた。
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