1人が本棚に入れています
本棚に追加
七海の言葉に岡崎翔太は「へー」と相槌をうった。
「岡崎君はなんで看護学部受けるの?」
1番疑問に思っていたことを聞いてみる。東城高校はこの付近の高校では1番頭が良い高校だし一見チャラチャラして見える彼もしっかりした理由があって看護学部を目指しているんだろう、とは思った。
「職場体験でいいなーって思ったから。ほら、直感って言うの?」
「直感?」
この人は、直感で看護学部を目指しているというのか。七海も似たようなものだがこんなこと進路調査書に書ける訳がない。
「あ、今俺が適当な理由で看護学部目指してるって思っただろー?」
「ま、まぁ。少しだけ」
本当はすごいそう思った。怖くて言えないけど。
「俺、こう見えて成績は上位なんだからな」
「へー」
七海がそう返した瞬間、後ろから「あれ?七海?」と声をかけられた。
振り向くと、中学の同級生の山下律子ことりっちゃんがいた。中学生の頃は、肩まであった髪がすっかり短くなりマッシュショートになったりっちゃんは石牧高校のセーラー服を着て黒いリュックを背負っていた。
「りっちゃん!?」
七海が驚いた声をあげると、隣にいた岡崎翔太は「あ、友達?じゃ、俺行くわ」と言って七海の返事を待たずに席を離れていった。
岡崎翔太と入れ替わるように七海の隣に座ったりっちゃんはスポーツブランドのロゴの入ったリュックを机に置いた。
「七海もこの塾通ってたんだ」
「りっちゃんこそ」
七海が返すと、りっちゃんはリュックから地元の国立大学のパンフレットを取り出した。
「私、経済学部受ける予定なんだ。七海は?」
「私は農学部」
「あ、じゃあ理系なんだ。道理で同じクラスにならないはず」
りっちゃんはそう言うと、自習室を出て行く岡崎翔太を目で追いながら呟いた。
「ってか、七海って岡崎と仲良かったんだ」
七海は首を左右に振った。
「さっき、話しかけられただけだよ」
「そうなの?」
七海が頷くとりっちゃんは「そっか」と呟いた。
「あ、前に文系のクラスの東城の子から聞いたけど、岡崎ってああ見えてめっちゃ頭良いんだって」
「そうなの?」
「あの子ってチャラチャラして見えるからすごい意外だよね」
「それは思った。さっき、なんで看護学部受けるか聞いたら職場体験とか直感って言われたもん」
「あーあの子、表向きにはそう言ってるらしいね」
「え?」
りっちゃんが口にした“表向き”という言葉に少しひっかかるものがあった。ということは、やっぱりちゃんとした理由があるのだろうか。
「東城の子が言うには、岡崎ってああ見えて根はすごい真面目で病院や介護施設のボランティアとか積極的にしてた子なんだって。誰かの役に立ちたいって気持ちが強いみたい。普段の岡崎からは想像つかないけどね」
りっちゃんはそう言って舌を出した。
「人の役に立ちたい、か」
もしかしたらさっき話しかけてくれたのは、七海が元気がなかったからかもしれない。元気がない人を元気にする力を彼は持っているのかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!