episode春 初めての友達

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episode春 初めての友達

「小春はいいなー、可愛い制服着れてー」  親友の真衣の高校と小春の高校の中間地点にあるファミレスで真衣が苺パンケーキを頬張りながら言った。 「真衣だっていいじゃん。公立行けて」 「そんなことないよ。うちは校舎汚いし。それとも親に何か言われてるの?」  小春は首を横に振った。  親には何も言われていない。真衣の通っている公立高校の受験に落ちた時だって励ましてくれたし、白を基調とした英国風で可愛い制服の小春の高校のことを褒めてくれた。  小春1人が結果を受け入れることができないでいるだけだ。 「じゃあ、なんで?偏差値とかは同じじゃん」 「真衣がいないから」 「私がいないから?」  小春は頷くとグレープジュースをズーッと音を立てて飲んだ。 「だって、私まだ…」  小春がそう言いかけた時、後ろから「真衣ー!」と呼ぶ声が聞こえた。  びっくりして小春が振り向くと、そこには知らない女の子が3人立っていた。みんな紺色の無地のブレザーとスカートに水色のリボンをつけている。真衣の通う学校の子達だ。 「あ、りっちゃん、なっち、美来!」  小春の知らない子の名前を真衣が呼ぶ。真衣は友達ができたんだ、と思う。  小春が俯いていると、女の子の1人が小春を見た。 「あ、S女学園の子じゃん。いいなー、K高と違って制服可愛いー!」  相手は本当に思ったことを言っただけだろう。でも、小春は見下されてるような気分になった。 「本当だ、やっぱり可愛いー」 「この子真衣の友達?」  1人の女の子に続いて他の子も話す。誰も小春の悪口を言っている訳じゃないのに彼女達の話題を気分が悪くなってきた。 「ごめん、真衣。私用事思い出したから帰る」 「え、ちょっと小春!」  後ろから真衣の呼び止める声が聞こえてきたけど、小春は振り向かなかった。  やっぱり、3月からの未練は消えてない。  公立高校に落ちて真衣と同じ高校に通えなかったことは、自分の努力不足だからだと分かっている。新しい高校で友達ができないのも自分が積極的に動かないからだと分かっている。  分かっているけど、それができないのだ。  小春がとぼとぼと自転車を押して歩いていると、後ろから「すみません」という声が聞こえた。その声が自分に向けられたものだということは分かっていたけど、相手をするのが面倒で小春は黙ってずんずんと歩いた。道案内なのか宗教勧誘なのか知らないけど、今の小春に人の話を聞く余裕なんてない。  でも、後ろの声をかけてきた人も諦めなかった。 「あの、すいません!」  さっきよりも大きな声で話しかけられて小春は黙って振り向く。  声の主は小春と同じくらいの歳の女の子だった。小春が着ているS女学園の制服と同じ制服を着ている。 「なんですか?」  小春が自転車をとめて振り返ると、彼女たちはホッとした顔になって話しだした。 「いきなりすいません、S女学園の生徒さんですよね?」 「あ、まぁ」 「私、事故で1ヶ月入院してて明日が初登校なんですけど道に迷っちゃって…」  それを聞いて小春の脳裏に担任の先生の言葉と小春の後ろの空席が浮かぶ。 「酒井さんの後ろの席の佐々木さんは、春休み中に事故に遭われて現在入院してるので5月中旬から登校してくるそうです」  もしかして、その佐々木さんがこの子なのだろうか。確信した訳じゃないけど、担任の先生の言っていた事故で1ヶ月入院という言葉と彼女が放った1ヶ月入院という言葉が重なる。 「えっと、もしかして佐々木千佳さん?」  小春に名前を呼ばれた彼女は一瞬驚いた表情を浮かべたがすぐにニコッと笑った。 「私の名前知ってるの?もしかしてB組の子?」 「う、うん」  ぎこちなく頷く小春に佐々木さんは「良かったー」とまた笑みを浮かべた。  そんな彼女を見て「この子なら仲良くなれるかもしれない」と小春は直感的に思う。 「名前なんて言うの?」 「酒井小春」 「小春ちゃんって言うんだ!これからよろしくね!私のことは千佳って呼んで」  優しく微笑む千佳に小春は頷く。S女学園も悪くないかも。  小春は千佳と一緒に学校へ向かって歩き出した。
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