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プロローグ
足先から伝わるひやりとした冷たさを振り払うように、杜本成亮は足を上げた。凍てつくような寒さと潮の香りを風が運ぶ。抉れ、色濃くなった砂浜を無視して、成亮はまた歩き出した。
数歩前を歩く、彼に追いつきたくて、少しだけ歩を進めるスピードを速めた。
「ねえ。」
彼は成亮を見ない。
「有輝也!」
もう一度、彼の名前を呼ぶ。
ぴくり、有輝也は肩を跳ねさせて、緩慢に成亮の方へと振り向いた。ぷっくりとした唇と不安げに揺らぐ重めの二重。成亮より幾許か高い目線は、ゆらゆらと成亮の前髪の切っ先辺りを彷徨っている。
「…何?」
「声かけたのに、答えてくれなかったから。」
「ああ…、ごめん。聞こえなかった。」
有輝也は茶色の飴玉を横に流し、鈍色が覆い尽くす海を眺め始まる。彼の横顔はとても綺麗で美しい。なんて綺麗な横顔なのかしらなんて思考の列車が見当違いの駅へと流れようとする。
違う違うと頭を振り、成亮は眼前の美しい彼に言葉を投げかける。
「俺、帰って受験勉強したいから、要件あるなら早くしてくれない?」
ぴゅう、と潮風が呻る。あまりの寒さに、成亮は羽織っていた黒のダウンジャケットのポケットに手を突っ込んだ。
再び、有輝也は視線を成亮へと投げかけた。ぷっくりとした唇が、ゆっくり、そして小さく言葉を刻む。
―――これはとある冬の話。友人をなくした、杜本成亮の話。
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