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次の日。
彼女はまた現れた。
また。
「だから!
危ないってば!」
星の降るところに。
今度は座り込んでいる。
「怪我するぞ!」
腕を掴んで立たせる。
「今日も来たね」
安全な場所まで引っ張っていくのを。
淡々とした表情で。
なんでもない風に言う。
「来たね、じゃないよ」
昨日手当てしてやった肩を。
ちょんとつつくと。
飛び上がって身をひいた。
「痛い思いしたくなかったら、
星の降ってる中に入っていくなよ」
「確かに綺麗かもと思って」
「え?」
空を見上げる。
透き通った目だ。
感情などどこかに置いてきたような目。
「ゴミが降る時、
星空が、
ゴミで陰って、
またあらわれて、
瞬いて見える」
「そう」
空を見る。
降るのは止んでしまって。
星が瞬くのは見えないけど。
彼女は。
空に輝く星ばかり見ていたのか。
「耳、
血が出てる」
「え」
不意に触られて。
飛び上がって逃げた。
「痛い?」
「急だったから、
ごめん」
一瞬触れた彼女の手には。
たしかに血がついていた。
さっき星が降る中で切ったのだろう。
「消毒、
する?」
「えっ、うん…」
ただ。
自分の耳は見えない。
うまくできない。
手間取っているのを見て。
彼女が手を伸ばし。
「触るよ?痛くしないから」
一言ことわる。
さっき飛び上がって逃げたからだろう。
「お願いします」
滲みて痛い。
慣れないせいだろう。
あまり上手じゃない。
「テープ、貼る?」
「あーいや、
耳だとうまく貼れないから…
血、出てる?」
顔を近づけて。
まじまじと見られる。
「止まってる」
「じゃあ、
そのままでいいよ」
道具を受け取る。
「ありがとう」
「いい。
こっちのせいで怪我したようなもんだし」
それもそうだ。
「なんで、
あんなとこ座ってたんだよ」
「綺麗だったから」
「でも危ないだろ。
前も星の降ってるところにいたし」
「ゴミだよ」
彼女はそれにこだわってる。
「この星のものは全部、
惑星の奴らが捨てたゴミ。
流れ着いたものをひろって、
ありがたがるなよ」
彼女はそう言って。
薄明かりの向こう。
東の空に昇る。
惑星を指差す。
「ゴミは、
ただそこに落ちて、
朽ちていくしかない。
どうせ自分もゴミでしかない。
あいつらに捨てられたんだ」
「そんなことない。
ここは星が降るところ。
君が降ってきたって言うなら、
君も星なんだよ」
空に広がる。
無数の星々を指す。
「子ども騙しなんていらない」
確かに。
小さい弟妹に言っていることだ。
「でも、
俺には本当に、
きみは星に見える」
また。
ぷいと横を向く。
降って間もない。
熱を帯びた星の欠片。
肩の傷に。
そっと触れる。
包み込むように。
今度は。
飛び上がらなかった。
美しいはずの惑星の青さを。
ただじっと。
透き通った目で見つめる。
そう。
ここは、ゴミの降る星。
惑星から捨てられたゴミが降り積り。
丘陵を成して。
捨てられた人が住み着いて。
ゴミを拾って生きる星。
終
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