丘のうえ

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少年は。 小高い丘に駆け上る。 星の瞬く夜。 明るい星も。 暗い星も。 影っては現れ。 また陰る。 裸足のまま。 丘を駆け上る。 星明かりだけを頼りに。 気の遠くなるほどの歳月をかけて。 降り積もった流星が。 なだらかな丘と窪地を作る。 毎日毎夜。 流れる星を拾い集めては。 それを売って稼いでいる。 惑星が上り。 沈むのを繰り返すように。 星が降り。 それを拾う日々。 そのままでも売れるけど。 磨くともっと高く売れる。 独特な光を放つ。 住処には子どもばかり。 10人で集まって暮らしてる。 一番年上の自分が、星を拾う役割だ。 下の子たちは拾ったものを磨くのと。 食事を作ったり。 住処を綺麗にしたり。 「おかえり、  兄ちゃん」 帰ると真っ先に。 すぐ下の妹が顔を上げる。 綺麗に磨いたものを。 袋に詰めていた。 「磨き終わったよ」 「ありがとう。  明日、売りに行ってくる」 みんなで食卓を囲んで。 みんなで一緒に眠る。 毎日そうしている。 ささやかな日常に感謝して。 毎日一緒にいれることを祝う。 深夜。 寝静まった夜中。 弟妹の寝息の向こうに。 カシャン。 カシャン。 星の降る音がする。 少年は。 目を開けた。 眠る弟妹の間を抜けて。 住処の外へ出る。 窪地に星が降っている。 星拾いのための道具を持って。 近づいていく。 星が降るのは。 いつもと変わらない。 でも。 その時。 降る星々の中を。 歩く人影が見えた。 同じくらいの背だ。 髪は短くて。 手足がひょろひょろと長い。 飄々と歩いている。 星など見えていないかのように。 「危ないよ!」 手を振って叫んだ。 こちらを見る。 虚ろな表情。 なんの感情も湧かない顔。 立ち止まる。 その場を動こうとしない。 カシャン。 カシャン。 足元で星が弾けて跳ね返る。 何やってるんだよ。 「危ないってば!」 カシャン。 カシャン。 頭を守りながら。 星の降る中を走っていき。 手をとる。 「こっち!」 丘を登って。 反対側へ降りる。 「振ってる中を歩くなんて、  危ないよ。  何考えてるの?」 何も持っていない。 拾いに来たわけではないのだろう。 「別に」 ぷいと横を向く。 「肩、  怪我してるじゃんか」 星が当たったのだろう。 ざっくりと切れている。 「菌が入ったら腐って落ちるよ」 その場に座らせて。 荷物の中から応急処置の道具を出す。 「何するの」 「消毒」 スプレーを吹きつける。 「いっったあ!」 飛び上がって逃げた。 「暴れるな!  こうしないと、  最悪死ぬんだぞ!」 弟たちにするように。 逃げるのを押さえつけて。 きつい消毒液をかけ続ける。 散々叫び声を上げて。 涙目になりながら。 消毒を終えて。 傷口を覆っていると。 そいつは。 消毒液のボトルを手に取った。 「綺麗だろ?  妹が3日かけて磨いたんだ」 綺麗な艶に。 自分の顔が。 びよんと伸びた顔が映る。 「綺麗?」 カンカンと叩く。 「やめろ、変形する」 取り上げる。 「そのゴミが、  綺麗?」 「ゴミって言うなよ」 「ゴミだろ」 足元の。 星々の欠片に手を伸ばす。 ざらざらと触り。 掴んだ中には。 ネジ。 針金。 ナット。 他にも。 鉄の何かの欠片がたくさん。 磨かれない。 黒く錆びた。 「ほら、  こんな鉄くず。  全部ゴミだ」 立ち上がった。 「また明日」 「また明日?」 ここでは。 星が降るから丘の形は刻々と変わる。 人がどこかに定住することはない。 一度別れたら。 それが最後。 「明日も降るよ。  もう少し明るい時間。  もう少し北の方で」 そう言って。 彼女は暗闇の中へ。 消えていった。
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