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本郷を見送った後は講義に戻る気にもなれず、 公園のベンチでしばらく過ごす。
先程、本郷から聞いた話を頭の中で反芻しながら、どこか自分と重ねてしまう。
『翼…君は、その人を守るためなら、自分の本当の気持ちを押し殺してもいいほど…愛する人に出会ったことがあるかい?』
そんな本郷の言葉が頭の中をリピートする。
彼の言葉には、重みがあった。
彼の決意は驚くほどに強靭で…
自分には到底、真似できない。
気を抜いてしまえば、いつでも栞に触れてしまいそうになる。好きだと言う気持ちが思わず口から溢れ出しそうになるのを、毎度自制するのにも疲弊してしまう。
この調子がいつまで続けられるのか…
自信のなさを感じていたところだった。
いつまで… …?
栞が仕事をしている間は?
栞の仕事が安定すると、自分の付け入る隙が生まれるのだろうか?
栞にとって、安定とは何か…?
それを待っているうちに、他の誰かに気がいってしまうのではないか…
そもそも、自分はまだ学生で…
栞を守れる立場にもない。
せめて栞と対等な立場にいなければ、栞が自分に振り向いてくれることなどないのではないだろうか。
今のままでは、所詮…"妹"止まりなのだ。
「はぁ… …」
カシャシャシャ…
ため息をついたところで、すぐ近くでそんな音が響く。聴きなれた音であるため、すぐに音の正体は分かった。
そのカメラのシャッター音が聴こえた方向を振り向く。
と、そこには…
見覚えのある人物が、秋に似合わないほど黒く焼けた健康的な肌でこちらに手を挙げ、笑っていた。
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