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「ただいま」
帰宅後、二人は荷物の解体をある程度済ませ、ソファに並んで座った。雫は数年ぶりの我が家をゆっくりと見渡す。マンションの一室は小綺麗で、ソファの横にある和室にひっそりと仏壇があった。
「本当は、三人で帰りたかった……」
「そうだな……。でも、お母さんの分も生きるんだよ」
「……うん」
雫は微かに首を引いた。待ちわびた娘とのゆっくりとした時間。心なしか、写真の中の実里も笑っているように見えた。
「疲れたのか?」
いまいち元気がない娘に克典は声をかけた。雫の背中は震えていて、克典は背中をそっとさすった。
──しかし、その手を雫は振り払った。
「雫?」
「──私、知ってるんだから。先生たちが話してる言葉とか、検索すれば一発なんだから」
その手にはスマホが握られていた。余命宣告時には新品同様だったカバーは使い込まれていた。
「お父さんたち、人を殺したんでしょ、その命を私に渡したんだよね。それで……それで……お母さんは私に命を渡すために死んだんだよね!!」
雫は涙をこぼしながらそう叫んだ。
「ちが……」
違う、そんなことしていない、ただいい薬があったから治ったんだ──言葉は出かかっているのに、声に出なかった。否定しない父の態度。雫は背を向けた。
「お母さんのところに行く」
「え、ちょっと待て、雫!!」
雫は克典の制止を振り払い、ベランダに飛び出すと落ちていった。数秒後、ドンっと鈍い音がして、覗き込むと微動だにしない雫が草の上に倒れていた。
草に浮かぶ露が儚く散るように、雫は散った。降り積もったライフも、散っていく。
克典は震える手でスマホを操作し、ライフジャパンの田中に電話をかけた。ワンコールするまもなく、電話の主は応答した。
「もしもし、こちらライフジャパンの田中ですが」
「あの、あの……正田ですが……雫が自殺を……」
「分かりました、ではそちらに伺いますね。克典様に循環すると言うことでお間違いないですか?」
「……はい」
「これは非合法ルートですので、決して口外しないでくださいよ」
克典は半年前、密かに余命一年と宣告を受けたばかりだった──
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