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「──それで、何の用ですか」
少し強い口調で克典は問うた。
田中は少しも動じす笑みを浮かべたまま続ける。
「お二人は、ライフ代償サービスをご存知でしょうか?」
「ライフ、代償サービス?」
「はい。誰かの命と引き換えに、別の人の命を延ばすプロジェクトです。現在、日本では生きていても仕方ない、犯罪人などが増加しています。そういった人や、もちろんあなた方の命を対象者に渡し、対象者の寿命を延ばす、いわば循環型サービスです」
田中の声は熱を帯びていた。
「あぁ、ネットで見ました。本当にあるんだ……」
「はい。法律でも定められていますし」
そう二千五百年の日本では法律に『生命引換法』が掲げられていた。殺人などの重い犯罪は増加の一途を辿り、死刑を待つ受刑者が刑務所に溢れていた。
無論、この法律が定められる際には反対意見も目立ったものの、法律案が審議される前から安全に命を他人に受け渡すことができてしまった。犯罪者の増加がこの法律の案を後押しした。
ただし、生命引換法にはいくつか条件があった。
「生命引換法……ですよね?」
克典は顔を上げた。
はい、と田中はうなずいた。
「ご存知の通りルールはありますが。一、国から認められた生命引換代行人であること。二、生命引換を申し出るものによって生命引換代代行人は命を取られること。これが基礎ですね。そして、命を取ることに関してもルールがあります。国から申請を受けた方は──おそらくお客様は承認されるかと──××島にて、二時間以内に犯罪者を殺します。その殺した“命”を職員の者が回収し、依頼者──お子さんでしょうか──に授けます」
克典は頭の隅でなぜ、雫のことを知っているのだろう、と思ったがこども病院前で深く項垂れていたら誰でも分かってしまうのだろう。
ただ、と田中は声を低くした。
「お客様に何か不幸がありましても、責任は誰にもありません」
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