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田中と会って一週間。二人はまた田中と会う約束を交わしていた。
彼は大量のパンフレットを手渡し、『実行するか否かを来週の月曜日までにご連絡ください』と言った。
昼下がりのハンバーガー屋は閑散としている。いや、病院の目の前にあるこの店はいつだって空いていた。
二人は緑色のパンフレットに目を落とす。それには田中が述べたような法律や命を引き換える手順などが事細かに記載されていた。
──自分の手で他人を殺し、人を生かせるか。
このことが要となっており、留まる人も多い。
そしてこのルールには一つ大事な事項がある。人によって伸ばせる年数が異なるのだ。
他者(犯罪者)の命ひとつで伸びる寿命は一年。殺せるのは五人。
しかし、自身、即ち自殺で命を渡した場合は十年延びる。
この場合、実里か克典が雫のために自殺し命を渡せば、雫の寿命は十年延びるのだ。
最大で、二十五年。雫は四十手前まで生きることが可能となる。降り積もった命で対象のものは寿命が延ばされる。
二人は、ある決断をくだした。
「遅くなってしまい申し訳ありません」
相変わらずのっぺりとした笑みを貼り付けたまま、田中が姿を現した。今日もネクタイは不釣り合いだ。
「いえ……その……」
「結論が出ましたか?」
ごくり、と克典は冷めたブラックコーヒーを飲み干した。
「はい……実行します。島で……命を頂きます。そして──」
克典の声が詰まった。肩が大きく震え、持ちっぱなしだった紙コップが机に落下し倒れる。それを震える手で戻しながら、実里は口を開いた。
「私の命を譲ります」
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