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02 決行
ブロロロロ……と鈍い音ともにフェリーが港にたどり着く。木々が鬱蒼としており、太陽の光はあまり入ってこない。実里はギュッと克典の手を握った。実里とも今日で別れてしまう。
克典は重く苦しい息をついた。こんな法律を作った上の者を憎んだが、そもそも病気さえなければこんなことにならないのだ、と克典は目を瞑る。神は残酷だ。──否、神なんていない。神がいるならば、雫を救ってくれるのに。
「それでは、こちらへ」
制服の帽子を目深に被った男が克典たちを誘導した。土埃が舞う少し開けた場所に数人の係員と、命を奪う側の者が丸く並んだ。
正田夫妻以外には、まだ若い夫婦が一組、二十代くらいの茶髪の男性、それから中年女性、計六人がいた。フェリーで話すことはなかったが、誰もが重苦しい雰囲気を纏っており目に光は無かった。
一人、あるいは一組で最大で犯罪者の命を五人奪えるので、二十人の犯罪者が島にいるのだろう。その事実に克典の背筋がぞくっとした。
「それでは、改めて説明を。まず皆さまにはこちらのリュックを配布します。この中には、ナイフとロープ、手榴弾があります。これらで受刑者の命を奪ってください。
奪った後、係の者が参りますので、動かずお待ちください。
──制限時間は二時間、よろしいでしょうか?」
六人は黙って頷いた。相変わらず平坦な口調で男は続ける。
「それでは、注意点をあげます。
一つ、一人、あるいは一組あたりが貰える命は最大五人です。六人以上となった場合、無効となりますのでご注意ください。
二つ、犯罪者以外の命を奪わないでください。怪我も含みます。たまたま手榴弾が当たったなどの不慮の事故でもいけません。その場合、犯罪者側に回ることになりますので」
男は冷静に告げたが、六人は身体を震わせた。実里がひっそりと耳元で「ナイフが妥当かもね」と囁くが、克典は固まったままでいる。覚悟はしていたものの、この手で命を奪うことがリアルになってしまった。
「また、犯罪者は昨日から食事をしておりませんので」
と、男は意味深の告げた。弱っている、と言うことだろうか。
「なにか、質問はございますか?」
「……あの、ここでリタイアはできますか」
物怖じ付いたのか、中年女性がおずおずと手を上げた。
「はい、その場合はここ、スタート地点に来ていただくか、近くにいる係員までお知らせください」
はい、とか細い声で女性はうなずいて手を下げた。
しばらく係の男は質問を促したが、誰からも声は上がらなかった。
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