02 決行

2/3
前へ
/9ページ
次へ
「──それでは、開始します。現在十一時ですので、十三時までです。  それでは、健闘を祈ります」  男が告げると共に、係員が島に入るよう促す。ゴクリと克典は息を呑んだ。茶髪の男が真っ先に前に進み、克典たちを手招きする。  残された者は顔を見合わせておずおずと続いた。 「あの〜……ちょっとみなさん、いいすか」  茶髪の男はぐるっと克典たちを見渡した。  ザーッと葉が擦らる音が不気味に響いた。 「俺は、新庄(しんじょう)と言います。この男──山内だけは俺が殺させてください」 「え?」  予期せぬ発言に克典たちは瞬きした。  新庄は一枚の写真を見せた。とんがったハリネズミのような髪に、鋭い目つきをしていて、こちらを威嚇しているようだ。 「みなさん、六年前の主婦誘拐殺人事件、覚えていますか? 山梨に住む主婦が連れ去られて、最終的に死体になって見つかった事件。  ……実は……あれ、俺の母さんなんですよ。    当時、俺は高校生で、何もできなかった。  母子家庭だった俺の家は、俺と心臓病を抱える妹だけ遺されたんです。  妹の命を救うためっていうのもあるんですけど、山内は俺の手で殺させてください。  恨みを……母さんの恨みを……晴らさせて下さい」  お願いします、と新庄は深く頭を下げた。見た目こそ、軽薄そうだが、苦しい過去を抱えていた。  予想外の告白に一同言葉をなくしたが、時間がない。  若い男性が「わかった」と声を上げた。 「辛かっただろうな……山内のことは俺は狙わない。皆さん、それでいいですよね?」  一同、黙ってうなずいた。新庄の不幸な境遇に、心が痛んだと同時に恨むを晴らしてほしいと願ったからだ。 「……ありがとう、ございます。絶対……この手で殺します。引き留めてすみませんでした……健闘を祈ります」  新庄はそう言うと、背を向け走り去っていった。一瞬見せた瞳には殺意が篭っていて、先ほどとは打って変わってギラギラと輝いている。 「俺らも……行こう」  若い夫婦が後に続き、正田夫妻と女性も島の中に入っていく──
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加