13人が本棚に入れています
本棚に追加
「──それでは、開始します。現在十一時ですので、十三時までです。
それでは、健闘を祈ります」
男が告げると共に、係員が島に入るよう促す。ゴクリと克典は息を呑んだ。茶髪の男が真っ先に前に進み、克典たちを手招きする。
残された者は顔を見合わせておずおずと続いた。
「あの〜……ちょっとみなさん、いいすか」
茶髪の男はぐるっと克典たちを見渡した。
ザーッと葉が擦らる音が不気味に響いた。
「俺は、新庄と言います。この男──山内だけは俺が殺させてください」
「え?」
予期せぬ発言に克典たちは瞬きした。
新庄は一枚の写真を見せた。とんがったハリネズミのような髪に、鋭い目つきをしていて、こちらを威嚇しているようだ。
「みなさん、六年前の主婦誘拐殺人事件、覚えていますか? 山梨に住む主婦が連れ去られて、最終的に死体になって見つかった事件。
……実は……あれ、俺の母さんなんですよ。
当時、俺は高校生で、何もできなかった。
母子家庭だった俺の家は、俺と心臓病を抱える妹だけ遺されたんです。
妹の命を救うためっていうのもあるんですけど、山内は俺の手で殺させてください。
恨みを……母さんの恨みを……晴らさせて下さい」
お願いします、と新庄は深く頭を下げた。見た目こそ、軽薄そうだが、苦しい過去を抱えていた。
予想外の告白に一同言葉をなくしたが、時間がない。
若い男性が「わかった」と声を上げた。
「辛かっただろうな……山内のことは俺は狙わない。皆さん、それでいいですよね?」
一同、黙ってうなずいた。新庄の不幸な境遇に、心が痛んだと同時に恨むを晴らしてほしいと願ったからだ。
「……ありがとう、ございます。絶対……この手で殺します。引き留めてすみませんでした……健闘を祈ります」
新庄はそう言うと、背を向け走り去っていった。一瞬見せた瞳には殺意が篭っていて、先ほどとは打って変わってギラギラと輝いている。
「俺らも……行こう」
若い夫婦が後に続き、正田夫妻と女性も島の中に入っていく──
最初のコメントを投稿しよう!